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IceCube実験による探索開始からの10年間


2021.05.13  

千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター
IceCube Collaboration

IceCube 10th Anniversary

 それは、世界がこれまで見たことのない壮大な実験の始まりでした。10年前の5月13日、IceCubeニュートリノ観測施設が初めてその眼を広大な宇宙に向けて大きく開きました。

 それまでの7年をかけ、世界中で最も乾いた極寒の南極に赴いた数十人もの勇敢な技術者、エンジニア、科学者らにより世界最大の最もユニークな望遠鏡が建設されました。彼らは、約2.5キロメートルの深さの穴を85個開け、バスケットボールほどの大きさの球型の光検出器を60個つないだケーブルをそれぞれの穴に降ろしました。その結果、南極点の氷河下の約1.6キロメートルの立方体の氷の中に、検出器が六角形のグリッド状に埋設されました。2010年12月18日に5160個目の最後の光検出器が氷河下に設置され、IceCubeニュートリノ観測施設の建設が完了しました。


IceCubeの建設タイムライン
IceCubeの建設タイムライン ©IceCube Collaboration

 この他に類を見ない望遠鏡の目的は、遠い宇宙の彼方のもっとも高いエネルギーを備えたある現象によって作られた、神秘的で小さく非常に軽い粒子ニュートリノからの信号を捉えることでした。IceCubeの創設者たちは、この天文物理的なニュートリノを研究することにより、宇宙の隠された部分が明らかになると考えました。その後の10年間で、彼らのその考えが正しかったということが証明されたのでした。

ICL
南極点にそびえたつIceCube観測施設。建物下の氷河の中に5160個の光検出器が埋設され、ニュートリノが放つ信号を捉える。©IceCube Collaboration


 IceCubeは10年前の2011年5月13日に本格的な運用を開始し、完成した検出器として初めてデータを取得しました。以来、IceCubeは10年間にわたって宇宙を見守り、継続的にデータの収集をしてきました。検出開始からの数年間、IceCubeは膨大な量のデータを蓄積しましたが、最初に大きな成果を得られたのは2013年のことでした。その年、IceCubeは2つの非常に高いエネルギーのニュートリノ事象を検出し、さらに26の超高エネルギーのニュートリノ事象の観測に成功し、銀河系外から飛来したニュートリノの証拠を初めて発表しました。

two neutrino events
2013年、2つの宇宙ニュートリノ事象候補検出を初公表したときの発表スライド。発表は千葉大学チームの石原安野教授がIceCube国際共同実験グループを代表して行った。


 それ以来、私たち実験グループは、より多くの宇宙ニュートリノの検出に成功し、ニュートリノ物理学、天文物理学、マルチメッセンジャー天文学の分野で飛躍的な進歩を遂げています。潜在的なニュートリノ放射源天体の特定から、最近のグラショー共鳴事象の検出まで、IceCubeは宇宙で最も捉えどころのない粒子を捉えることの価値を何度も証明して来ました。

IC170922A
ニュートリノ放射起源天体同定のきっかけとなったニュートリノ事象「IC170922A」 ©IceCube Collaboration
Hydrangea
IceCube実験によって検出されたGlashow共鳴のイベント。2020年12月まで千葉大チームに所属していたLu氏が主導した研究により判明した。©IceCube Collaboration


「National Science Foundation(全米科学財団)は、技術の性能とニュートリノ観測望遠鏡としての装置の感度において、IceCubeに2重の賭けをしました。」IceCubeの最高執行責任者であり、IceCube実験の本拠地である米国ウィスコンシン大学マディソン校の教授のFrancis Halzenはこう振り返ります。「IceCube実験グループは、ハイリスク・ハイリターンで有益をもたらす取り組みであると立証する10年分のデータを提供してくれました。」

 この成功により、最先端の技術を用いてIceCubeが検出したデータを解析する科学者たちが増えてきました。数十人の夢想家から始まったIceCube実験グループ「IceCube Collaboration」は、今では国際的なグループとなり、5大陸12か国53機関から350人以上の科学者が参加しています。また次世代の物理学者を育成するため、あらゆる年齢層の人々を対象とした教育活動やアウトリーチ活動を積極的に行っています。

 この記念すべき節目を祝うため、WIPACやIceCube実験に参加している各研究機関は、それぞれのウェブサイトやソーシャルメディア(フェイスブック、ツイッター、YouTube)などにてハッシュタグ「#IceCube10」をつけて発信しています。ぜひ、チェックしてください。秋に開催されるIceCubeのコラボレーションミーティングまでの5か月間、過去10年間のハイライトをご紹介する予定です。

 また、IceCubeの明るい未来にも期待が寄せられています。このユニークな観測装置は、ニュートリノの性質、暗黒物質、宇宙線、基礎物理学に関する有力な結果を出しており、科学の幅を広げ続けています。全米科学財団は、南極の観測施設の次のステージとなる「IceCubeアップグレード」建設資金の提供が決定し、世界中の新型コロナウィルス感染拡大の影響でスケジュールの変更を余儀なくされてはいますが、2023年には建設が開始される予定です。この計画には、千葉大学で開発されたD-Egg新型光検出器が採用され、南極点への輸送に向けて300個の製造が進められています。この建設は、高エネルギーのニュートリノの検出を目指し、現在のIceCubeのおよそ8倍に拡大される「IceCube Gen2(ジェンツー)」計画へと続きます。

これからのIceCube
IceCube-Gen2計画の完成予定図。アップグレード計画(左端の円)を経て、現在のIceCubeニュートリノ望遠鏡のおよそ8倍の面積に拡大される。©IceCube Collaboration
右は、千葉大学IceCubeグループがデザイン・製造を担当した新型光検出器「D-Egg」。アップグレード計画のため、およそ300個の検出器を製造している。©Nobuhiro Shimizu, ICEHAP


コロナ感染の状況が早く終息し、皆さんと一緒に集まってお祝いできるように強く願っていますが、今日のところは、バーチャルでIceCubeの10周年のお祝いにご参加いただけたら嬉しいです。


IceCubers
パンデミック前に行われたIceCubeコラボレーションミーティングでの記念撮影。©IceCube Collaboration


当HPの「IceCube実験」ページで、これまでのIceCube沿革をご紹介しています。 ぜひ こちらもご覧ください。

IceCube実験グループのリリース「Celebrating IceCube’s first decade of discovery」(英語)は、 こちらからご覧いただけます。