ICEHAPインタビュー | 広報活動


 研究室に所属していると様々なタイプの研究者の方と会う機会が、当たり前のようですが多くあります。しかし、仕事以外のことでお話を聞ける機会は、実はあまりありません。なので、どのように物理学に興味を持って、どのように研究者の道へ進んだのか、いつも気になるところです。今回は、ICEHAPのニュートリノ天文学研究室に少しの間滞在していたWIPACの芦田洋輔さんにお話しを伺いました。WIPACは、IceCube実験の本拠点で、アメリカのウィスコンシン大学のマディソン校にあります。芦田さんは、2年前にWIPACへ入り、ポスドク研究者として勤務しています。研究者の道を進んだきっかけ、現在の仕事の様子、そして普段どのように研究者として過ごしているのかなど聞いてみました。

Interview vol.01  YOSUKE ASHIDA



YOSUKE ASHIDA
穏やかに関西弁で質問に答えてくれた芦田さん ©ICEHAP
プロフィール / 芦田 洋輔 (あしだ ようすけ)

 1992年生まれ。大阪府出身。大阪星光学院中学校・高等学校、そして京都大学を卒業し、2020年に京都大学大学院でPhDを取得。同年にアメリカ・ウィスコンシン州に渡り、ウィスコンシン大学マディソン校に所在するWisconsin IceCube Particle Astrophysics Center(WIPAC)にポスドクとして着任。現在は、IceCube実験とその次世代建設計画Gen2(ジェンツー)関連の研究を担当。




大学4年の時に「ちょっとちがう」、工学部から理学部へ

ー まず、物理学を勉強しようと思ったきっかけを聞かせてください。

 

 僕は元々工学部を専攻していたんですけど、大学3年の時に研究室見学とかがあって、工学部の研究室を見て回ったんですけど、なんかちょっと違うなと。思っていたよりも興味が持てず、これをずっと続けるのはちょっときついなって思ったんです。でもその時、授業で取っていた物理が面白いと感じていたので、理学部の研究室も見学に行ってみたんです。物性物理の研究室とかがあって、こっちのほうが工学部の専攻より面白そうって思って、4年からは理学部の授業も取り始めて、物理を真剣にやろうかなってこの頃思い始めました。



ー 学士を工学で取って、修士を理学へってパターンもあるんですね。研究職に就こうと思ったのはいつ頃だったんですか?

 

 研究職を考え出したのは、ほんまに最近です。就職状況としては、やっぱり工学部卒の方が就職しやすい。それを辞めてまで物理の道に進んだので、この道を究めてやろうという気持ちがありました。でも研究者になろうって目指してとかいうわけじゃなく、博士号を頑張って取ろう、面白かったら研究者もいいなってくらいの気持ちでした。楽しくやれたらいいかなって。研究室や、共同研究に参加していた時にポスドクとかの研究員の人たちと一緒に仕事をする機会が多かったので、研究員という仕事が身近でイメージしやすかったということもありました。



PhDを取得後、IceCubeの本拠地へ

ー 大学院ではどんなテーマで研究をしていたのですか?

 

 T2K実験、スーパーカミオカンデ実験などに参加し、過去の超新星爆発で生成されたニュートリノ(超新星背景ニュートリノ)の探索が主な研究のテーマでした。T2K実験で人工的に作ったニュートリノビームを用いて、大気ニュートリノ背景事象を正確に見積もるなど、探索感度向上を目的とした研究をしてていました。



ー 卒業後、すぐにアメリカに行かれたということですが、なぜ日本ではなくアメリカで研究しようと思ったのですか?

 

 IceCube実験の本拠地であるウィスコンシン大学のマディソン校で、研究してみたいというのがありました。あとは、アメリカでいつかは研究してみたいなと思っていて。



ー WIPACではどのような仕事をしているのですか?取り組んでいる研究は?

 

 主に取り組んでいるのは、ニュートリノが飛来してきた方向とその起源を調べるためのポイントソース解析に関わる研究です。IceCubeの検出データの多くはカスケード型のニュートリノ事象で、ニュートリノが来た方向がトラック型事象に比べると分かりにくいという課題があるんですが、シュミレーションだけでなくてこれまで検出してきた実際の観測データを使って検証して、カスケード型の方向解析精度を改良して、その精度の向上を目指しています。


YOSUKE ASHIDA
左がカスケード型、右がトラック型のニュートリノ事象。球の大きさはエネルギーの大きさを、色は検出された時間を表している。
赤い部分が先に検出され、青色が最後に検出されているので、トラック型のような形状だとニュートリノの到来方向がわかりやすい。
©IceCube Collaboration
 

 ほかには、Gen2の実験で使用される「トリガー」というデータをオンラインで選別するシステムに関する研究にも携わっています。どのようなトリガー条件を課せばハードウェア側からの要求を満たせるのか、またそれらが実際の測定にどんな影響を及ぼすかなどを、シミュレーションデータを用いて調査しています。この調査結果によってハードウェア研究に対してフィードバックを与えることも重要な目的のひとつです。



結果が出せていればいい、自分のペースで研究できる研究職

ー 研究者の仕事の楽しいところはなんですか?

 

 前提として物理が面白いからっていうのがありますが、いままでわからなかったことを論理的に詰めていくと、こうなっているんやって。大それた事ではなくて、ちょっとしたことを解決っていうのがほとんどなんですけど、単純作業と比べると、そういうところが楽しいです。あとは、いろんな国の人や全然違うバックグランドの人たちと一緒に仕事出来るということも、この業界のよい特徴だと思います。今はこういう状況ですけど、本来は学会などで様々な国を訪ねる機会も多くあります。



ー 逆に辛いところはありますか?

 

 論文書くときにしんどいっていうことはあるけど、研究しててつらいっていうことはないですね。辛いことが増えてきたら多分やめます。今のところ辛いことはないから、続けています。(笑)



ー 他に研究者の生活で気に入っているところがあれば、教えてください。

 

 様々な国の研究者と仕事をするので、時差の事情で変な時間にミーティングがあったりは時々ありますけど、毎日8時に出社しないといけないとかはなくて自分のペースで研究できるというところは気に入っています。毎日8時間は寝れてますし(笑)   あまり頭が働かない時間とかあるじゃないですか。職種によってはみんな足並み揃えないといけないとかありますけど、研究者はちゃんと結果を出せていればいいので、そこはいいと思います。



ー 1日どれくらい研究のことを考えているのですか?

 

 研究に没頭しているというかハマっている時は、しょっちゅう考えてますね。歩いているときとかも。でも、年中ってわけじゃなくて、そうじゃない時は、のんびりしてますけど、一番ガァってなっている時は起きてる間はずっと考えています。



コロナ禍で人との関りの大切さを実感

ー 2年前に渡米ということは、新型コロナウィルス感染症が世界的に流行し始めてすぐのころですよね。コロナ禍で心境の変化などありましたか?

 

 人と直に会うことは大切なんだなって、改めて感じました。いままでもオンラインで会議したり、リモートワークは度々していたんですけど、コロナ禍では本当にリモートオンリーになってしまって、結構きついです。会議の合間のちょっとした雑談とか、正直これまで研究や仕事にそんなに影響があるとは思っていなかったけど、オンラインになってそういうのがほとんどなくなって、仕事のやる気が薄れていくのを感じました。オンラインだと、ミーティングのためだけに集まるので、発表するほどのことではないけどっていうのがいっぱいあるんですけど、そういうのを話す機会が激減してしまって。特に、僕はWIPACに着任したばかりだったので、人と会えなくて仕事もはかどらないっていうのもあり、かなり辛かったです。



教科書を開くのも嫌だった小学生時代、中学受験で勉強にハマる?

YOSUKE ASHIDA
勉強嫌いな小学生だったという芦田さん。
昔から好きな映画は「Back To The Future」、特にシリーズ2が好き。
でも、物理学者のドクに憧れてというわけではなかったそうです。 ©ICEHAP
 

ー 突然ですが、子供時代について聞いてもいいですか?どんなお子さんだったのでしょうか?昔から宇宙とか科学とかが好きだったのですか?

 

 小学校時代は不良では無かったんですけど、授業が始まっても教科書開かないし、宿題もしないっていう、何もしない落ち着きのない子だったんです。公立中学や高校で教師をしていた両親に、公立の中学に進むより、内申点とか関係のない私立の中学校を受験した方が良いと言われて、半ば強制的に中学受験をしました。いまでは良い選択だったと、両親にはとても感謝していますが(笑)   その頃は宇宙が好きとか全くなくて、勉強も好きじゃなかったです。図工とか物をつくったり絵を描いたりするのは好きでした。受験勉強のために自習室みたいな塾に行っていたんですけど、そこで勉強にハマって、友達の遊びの誘いを断って勉強してるくらいでした。



ー ご両親が心配するくらいだったのに、すごい変わりようですね。受験勉強や仕事中にもあると思うんですが、やらなきゃいけない時にどうしてもやる気がでないっていうときありますか?そういう時にしていることがあったら教えてもらえますか?

 

 期限がないときは、とりあえずやらないです。いつまでにやらなきゃいけないって場合は、とりあえず散歩にでかけます。歩きながら、どうしようかとか考えたり、考えを整理したり。普段からよく歩きますね。仕事とかに行き詰ったりした時も、歩きます。行き詰ったままでその場に留まらずに、その場を離れるんです。



「頭を使う」トレーニングを積む

ー これから物理や研究者の道を目指す学生さんたちにアドバイスがあれば、お願いします!

 

 頭を使う練習をしてほしいです。これは、大学の恩師である中家先生(京都大学・中家 剛教授)に僕もめちゃくちゃ言われていたんですけど。日本の学校での勉強法って暗記中心で、数学とかも答え見て公式覚えてって感じが多いと思うんですけど、研究はその真逆なので。


 僕が学生時代よくやっていたのは、数学とかで解けない問題があるとしたら、分からなくてもとりあえずその日は置いておいて、次の日や数日後にまた戻って解きなおす。答えを見ちゃうとそこで終わりなので、見ないで挑戦し続けるというのを大切にしています。研究って答えがないから、そういう粘り強く続ける練習が役に立つと思います。研究でもデータなんかを見たときに、「ああ、そうなんや。」って終わるんじゃなくて、なんでこんな結果になったのかなって考えるようにするのが大事なんです。そうすれば理解力も培われてくるし、物理に限らず、全ての研究においてそういう力が大事になると思います。研究者になるなら、それをやらないと、ただ結果だけ持ってミーティングに出るとかだといい研究者ではなくて、いい研究者の下で働く労働者になってしまうんで、面白い研究はできない。ノンストップで暗記しまくる人は、それはそれで役に立つのかもしれないし、優秀だとは思うけど、物理の勉強をするのであれば、そして研究者をめざすのであればなおさら、頭を使う練習を日々積むようにした方が絶対いいです。それで面白いと思えるようだったら、研究者の道を進むのがいいんじゃないかと思います。ブルーバックスとかテレビの特集とか見て、物理面白そうだなぁって始める人も多いと思うけど、そういう考える練習をしてこないで始めちゃうと、作業をこなすのは早いけど、いざ研究を始めてくださいってなった時に、全然アウトプットができなくて苦しくなって、「自分は研究者に向いてない」って辞めちゃう人が時々います。でも、僕は向いていないってよりもそういうトレーニングを積んできていないせいだと思うんです。練習すれば誰でもある程度は習得できる事なので、大事なのはそれに気づいて練習を始めるって事だと思います。


ー 「分からない問題は数日置いておいて」、次に解きなおしたときに解けるものなんですか?

 同じことをやっている人には会ったことがないですが、僕は小学校のころからすぐ答えを見るのが好きじゃなかったんです。あきらめるのが悔しいから。ゲームとかもレベルをクリアできないと悔しいし、人にクリアしてもらったりとか嫌じゃないですか。クリアしたところが見たいんじゃなくて、自分でクリアしたい、そんな感じで問題も自分で解きたいんです。それで、一旦分からない問題から離れて、他の教科や次の問題とかしたり、時には数日置いておいたりして頭を切替えてから戻ると、「なんや、こう解けばいいんや」ってなる事は多いですね。その問題から離れている間に頭が整理されるというか。なので、効果はあると思います。お勧めします。



若い研究者が活躍できるアクティブなIceCube

 

ー 最後に、芦田さんにとってIceCube実験の魅力を教えてください。

 まず、高エネルギー宇宙線をニュートリノを通じて世界最高の精度で研究出来ている実験というところがとても魅力的です。世界中の大学や研究機関が協力し、それぞれの強味を活かして研究ができているということもとても健全でよい実験グループだと思っています。ニュートリノ観測はとても難しい分野ですが、IceCubeはめちゃくちゃ結果をたくさん出せていて、これだけの大きさの実験グループですごい数の論文を発表していて、多くの若い研究者が活躍できるとてもアクティブな実験グループだと思います。


YOSUKE ASHIDA
「めちゃくちゃ結果を出しているIceCube実験はすごい!」 ©ICEHAP



取材あとがき

 研究者ライフを楽しんでいる芦田さん。お話を聞いている私もワクワクしてしまいました。気分転換の方法や、「頭を使う」トレーニングなど、研究室の学生にも読んでもらいたいなと思うためになる内容の話もたくさん聞けました。芦田さん、貴重なお話をありがとうございました。


インタビュー・撮影:高橋 恵(ICEHAP)