太陽物理学 | プラズマ宇宙研究について

プラズマ宇宙研究部門堀田 英之 准教授

ひので衛星が観測した太陽黒点
図1 ひので衛星が観測した太陽黒点(国立天文台/JAXA)

我々の最も近くにある恒星であり、常に我々を静々と照らし続ける太陽ですが、実はその活動は非常に活発で謎に満ちています。太陽活動の最も重要なものは黒点です。(図1)
黒点は太陽表面の中で磁場の非常に強い領域で、その強い磁場ゆえに太陽フレアやコロナ質量放出といった現在の太陽系で最大の爆発を引き起こします。

1700年代からの黒点数の変遷
図2 1700年代からの黒点数の変遷。黒線は月ごとの黒点数、赤線は一年平均の黒点数。
データはベルギー王立天文台提供 http://sidc.be/silso/home

太陽黒点の特徴の中で最も謎に包まれているのが「11年周期」です。黒点の科学的観測は1600年代初頭にガリレオ・ガリレイが望遠鏡を使って始めました。それから現在までの400年の間ほとんどの期間で黒点の数は11年の周期をもって変動しています。(図2)
この黒点数11年周期を維持するための物理機構はいまだに明らかになっていません。黒点は太陽表面で強い磁場を持っている領域なので、黒点数の周期は磁場の周期と読み替えることができます。よって11年周期の謎は、太陽の磁場生成・維持の謎と考えることができるのです。太陽の磁場は、太陽内部で生成されていると考えられていますが、どのような波長の光を用いても太陽の中身を見通すことはできません(実はニュートリノを用いると、太陽の中心付近の概観を得ることはできます)。そこで、数値シミュレーションを用いて太陽内部を再現することで黒点数11年周期の謎を解明しようというのが、我々の研究です。

太陽内部の外観図
図3 太陽内部の外観図。
光の放射でエネルギーを外側に運ぶ放射層と熱対流によりエネルギーを運ぶ対流層で構成されている。

さて、ここで太陽内部について簡単にまとめておきます。太陽は、その中心部で核融合によってエネルギーを生成しつづけています(本筋とは関係ないですが、この核融合の時に生成されるニュートリノを地球から観測することができます)。ここで生成されたエネルギーは、太陽半径の70%ほどまでは光の放射によって運ばれます。しかし、そこから先は太陽内部の不透明度が上がるために、光の放射によるエネルギー輸送の効率が悪くなりお湯を沸かしたように熱対流がエネルギーを運ぶようになります。太陽は主に水素とヘリウムで構成されていますが、太陽内部は温度が非常に高いために水素とヘリウムを構成する電子と陽子がバラバラになるプラズマという状態になっています。プラズマと磁場は一緒に動く(磁力線凍結)のでプラズマが乱流的な熱対流運動をすると磁場がそれに引き伸ばされるということが起こります。磁場は引き延ばせば引き延ばすほどエネルギーを持つようになります。これが太陽内部の磁場生成の基本的なメカニズムと考えられています。(図3)

これだけならば話は単純なのですが、巨大な太陽のスケールと低い粘性のために太陽内部の熱対流は非常に複雑な乱流構造を持っていると考えられています。例えば、太陽の深部で熱対流の典型的な大きさは20万kmほどだと考えられるのですが、粘性によって潰されない最も小さな乱流のスケールは1 cmほどだと考えられ、このような高度に複雑な乱流がどのような過程で磁場を生み出すかを考えることは非常に困難になります。

そこで数値シミュレーションが重要になって来るのですが、数値シミュレーションを用いたとしてもこのように高度な乱流を再現することは難しいです。太陽内部を再現するような数値シミュレーションでは、空間を格子状に分割し、その上で微分方程式を解きます。この時、格子状の分割が細かければ細かいほど現実を正しく表せるようになるのですが、その分、計算負荷が増してしまいます。そこで、できるだけ太陽内部を正確に再現しようと京や富岳といった超巨大なスーパーコンピュータを有効に用いる必要があります。日本では、スーパーコンピュータの計算資源が比較的潤沢にあり、この資源を有効に生かすことができれば、世界に先立つ成果をあげることが可能です。しかし、京や富岳のような巨大なシステムを有効に用いることは容易ではありません。我々のグループでは、これらの巨大スーパーコンピュータを有効に用いるために計算手法から見直し、独自の計算コードを開発することで世界的にも先進的な計算を行うことができています。

太陽全球を包括した数値シミュレーションの結果
図4 太陽全球を包括した数値シミュレーションの結果。
エントロピーという物理量を表示している(Hotta, 2018より引用)

その成果の一つを上の図4に示します。
これは太陽全体を包括した計算で乱流的な流れや磁場を仮定少なく再現しています。太陽では、発する放射量、内部の密度、圧力、温度分布などが非常に精密に観測によって明らかになっているので、計算を行う上で仮定を少なくすることが可能になっています。これらの取り組みによって徐々に太陽内部の大規模磁場が周期性を持つ仕組みがわかってきました。太陽内部の大規模な流れによる磁場の引き延ばしと、自転の影響を受けた乱流のわずかな規則性が周期性を発生させうることがわかってきたのですが、「なぜ11年なのか?」という疑問には答えることができていません。富岳やさらに次の世代のスーパーコンピュータを用いてこの疑問に答えていきたいと考えています。

黒点シミュレーションの結果
図5 黒点シミュレーションの結果。
太陽表面から発せられる放射量を表している。

さらに太陽の11年周期を理解する上で、難関となっているのが太陽内部の大規模磁場と黒点の接続です。太陽内部で生成された磁場は、何かのきっかけで太陽表面へと浮かび上がり、黒点を形成すると考えられています。しかし、太陽内部と太陽表面とでは時間・空間スケールが大きく異なり、一つの計算の中に入れ込むことは非常に困難となります。しかし、我々はここでも新しい計算手法を取り入れ世界で唯一「太陽内部も表面も解くことのできる数値計算コード」を開発しました。この数値計算コードを用いると、太陽の深い場所も計算しつつ、図5のような精密な黒点計算も可能です。このような取り組みができているのは2020年時点で我々のグループのみです。このような取り組みをさらに発展させ、太陽物理学の最大の問題である「太陽11年周期」の謎に世界に先駆けて挑んでいきたいと思います。