高エネルギープラズマ粒子加速 | プラズマ宇宙研究について

プラズマ宇宙研究部門松本 洋介 特任准教授

超新星残骸SN1006のX線画像 電波銀河Hercleus Aから噴出するジェットの電波画像
図1
左:超新星残骸SN1006のX線画像 (Credit: NASA/CXC/Middlebury College/F.Winkler)
右:電波銀河Hercleus Aから噴出するジェットの電波画像(Credit: NASA, ESA, NRAO/AUI/NSF, STSci/AURA)

宇宙には高エネルギーの荷電粒子が飛び交っており、これを宇宙線と呼びます。宇宙線のエネルギーは109 電子ボルト(1 電子ボルト=1.6×10-19 ジュール)から1020 電子ボルトまで及びます。一方、宇宙に広く分布する荷電粒子(イオン、電子)で構成されるプラズマのエネルギーは数電子ボルト程度であり、これら冷たいプラズマ中の荷電粒子が10桁以上も高いエネルギーを持つ宇宙線へと、どのように変貌するのかを理解することは、チャレンジングな問題として残されています。
高エネルギーニュートリノの観測や天体望遠鏡による電磁波(X線やガンマ線など)観測は、ブラックホールから噴出する宇宙ジェットや超新星爆発などの巨大エネルギー解放現象に伴って宇宙線が生成されていることを示唆してきました(図1)。超新星残骸では、爆発によって生じた衝撃波面近傍で、高エネルギー電子によるX線放射の様子が詳細に示されています。活動銀河では、中心核から両方向に噴出するジェットが周辺プラズマと相互作用する領域に強い衝撃波が形成され、この衝撃波面近傍で荷電粒子が加速されて高エネルギーの宇宙線を生成すると考えられています。活動銀河中心から噴出するジェットおよびその周辺で加速された高エネルギー粒子は2017年9月に南極ニュートリノ望遠鏡IceCubeが捉えた高エネルギーニュートリノ生成源の有力な候補となっていますが、衝撃波面近傍で荷電粒子が効率的に加速されるメカニズムは明らかになっていません。

我々の研究では、プラズマ物理学の知見を天体現象の解明に活用し粒子加速メカニズムを明らかにしようとしています。粒子加速を明らかにするためにはプラズマ粒子系の位置と速度の分布関数レベルに立ち返る必要があり、必然とプラズマの基礎方程式である無衝突ボルツマン方程式(とマクスウェル方程式)を扱う必要があります。この強い非線形方程式を解くために数値シミュレーションの手法で取り組んでいます。しかし、荷電粒子多体系であるプラズマ粒子シミュレーションではその計算量が膨大になるため、スーパーコンピューターの計算能力が必須です。我々は無衝突ボルツマン方程式を高速に解くことができるシミュレーションコードを開発し、スーパーコンピューター「京」やその後継機「富岳」のような数10万~数100万個の計算プロセッサを用いた並列計算にも対応できるようなコードの開発に成功しました。
スーパーコンピューター「京」の計算資源をフル活用して、空間3次元・速度空間3次元の計6次元計算といった、超大規模シミュレーションを実施しました。衝撃波面近傍で卓越する磁場の強い乱れが電子を散乱させることで、衝撃波面近傍の加速領域に粒子を長時間閉じ込めることができることが示されました。これにより、高いエネルギーまで粒子を加速し続けることが可能であることが明らかになりました。

衝撃波近傍の乱流的変動。Matsumoto et. al. Phys. Rev. Lett. 2017より。

これまで全く想像しなかったような描像が明らかになるなど、大規模シミュレーションは新しい物理メカニズムを切り拓くうえで重要な研究手法です。これまで使用していたスーパーコンピューター「京」は運用が終了となりましたが、現在はその後継機である「富岳」が稼働しています。「富岳」を使うことで、これまで議論できなかった陽子(イオン)加速も同時扱うことができるようになります。電子加速に加え、陽子加速をも同時に明らかにすることで、高エネルギーニュートリノの起源の議論に向けた一歩を踏み出すことができると考えています。これにより、南極ニュートリノ望遠鏡IceCubeによって観測される超高エネルギーニュートリノの発生機構にも迫ることができます。ハドロン宇宙国際研究センターにおけるニュートリノ観測と理論シミュレーションのシナジーがようやく見えてきたところです。
また、大規模シミュレーションではデータ解析に数100テラバイト(1014バイト)に上る膨大なデータを解析する必要がありました。「富岳」時代ではペタバイト(1015バイト)のデータを扱うことは必至で、そのため、データ解析技術にブレークスルーが必要であると考えています。被加速粒子の発見などに機械学習の技術を役に立てる研究に着手しており、将来的にHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)とAIの融合を目指しています。

スーパーコンピューター「富岳」
スーパーコンピューター「京」の後継機『 富岳 』