銀河団の形成、進化 | プラズマ宇宙研究について

プラズマ宇宙研究部門石山 智明 准教授

大規模構造の中に存在する銀河団ハロー

われわれが存在する銀河系は、おとめ座銀河団と呼ばれる銀河の集団の端に存在しています。銀河団とは銀河を数十から数千個程度含む銀河の大集団です。自己重力で支えられた構造としては宇宙で最大のものです。そのサイズはおよそ1000万光年にわたり、総質量はおよそ100から1000兆太陽質量にもなります。質量の大部分はダークマターとして存在し、銀河団全体のおよそ8割を占めると考えられています。残りはダークマターの巨大な重力ポテンシャルで支えられた星や高温のプラズマガスで、それぞれおよそ数%、および1~2割と推定されています。

銀河団の形成にはダークマターが深く関係しています。宇宙初期に存在したダークマターの微小な密度揺らぎが、重力によって徐々に成長していき、ダークマターハローとよばれる自己重力で支えられた巨大な構造を宇宙のいたるところに形成します。ハローははじめに質量が小さいものが形成し、それらが合体を繰り返しより大きく成長していきます(図1)。このように、階層的に構造を形成しながら、ハローの中でガスが冷えて収縮して星が誕生し、銀河が形成していったと考えられています。さらにその過程で、重力によって銀河が集まって銀河の小集団を形成します。そしてそれらが他の銀河を取り込んだり、お互い合体衝突を繰り返して、現在見られる銀河の大集団、つまり銀河団が形成していったと考えられています。

銀河団が階層的に形成する過程
図1:銀河団が階層的に形成する過程を数値シミュレーションで計算しました。シミュレーション上ではダークマターの運動のみを解いています。それぞれのパネルの右上に書かれた数字は赤方偏移をあらわし、宇宙の年齢に対応します。左から右に宇宙誕生から約5、10、30、139億年経過したときの様子です。一番右のパネルは現在の宇宙に対応し、一辺の空間サイズはおよそ1億光年です。中央は銀河団サイズのハローです。

銀河団は宇宙全体で見ると若い天体であり、相対的に稀少な天体になります。したがって、その個数密度や空間分布は宇宙初期の密度揺らぎや、ダークマター、ダークエネルギーの性質に強く影響されます。そのため、図1のようなシミュレーションで計算された銀河団の大局的分布を、観測と比較してわれわれの宇宙の成り立ちを知ることができます。すばる望遠鏡に搭載されている、国立天文台が開発を主導した超広視野主焦点カメラ、Hyper Sprime-Cam(HSC)による大規模サーベイなどで重点的に観測が進められている天体でもあります。

銀河団内部に目を向けると、銀河団全体に存在するガスの温度は数千万度以上と非常に高温で、原子はイオン化されプラズマ状態にあり、銀河団ガスは強いX線を放射しています。銀河団中心と外側ではガスの圧力に大きな差があり、ガスを銀河団中心から外側に向かわせる力としてはたらきます。この力と銀河団全体の巨大な重力(ダークマターが支配的)が釣り合い、銀河団の形状を準安定的に保っていると考えられています。したがって、銀河団ガスのX線強度の分布はダークマターの分布と密接に関連しています。銀河団は次期X線分光撮像衛星XRISMのメインターゲットで、その観測と比較し銀河団をより深く知るためには、宇宙磁気流体・プラズマシミュレーションが必要不可欠です。

銀河団のメンバー銀河は主に銀河団自身の重力によって銀河団内を運動し、その速度はおよそ1000km/sにも及びます。これは実際に観測された銀河の星成分の総質量から推定される速度よりもはるかに大きく、ダークマターが存在する証拠になっています。実際に1930年代、スイスの天文学者であったフリッツ・ツビッキー(Fritz Zwicky)がかみのけ座銀河団のメンバー銀河の速度を推定し、その大きさを説明するには電磁波では見えない物質の存在を仮定する必要があると考えました。これは天文学的観測からダークマターの存在が示唆されたはじめての研究として、今日では受け入れられています。

銀河系の近傍では、銀河の性質が銀河まわりの環境に依存することが知られています。例えば、まわりに他の銀河が多い銀河ほど星形成が活発ではなく、逆に他の銀河が少ないほど星形成が活発です。銀河の密集している銀河団中心でも、星形成が活発ではない楕円銀河とレンズ状銀河がほとんどの割合を占めています。このような特徴は、銀河の誕生した時の環境で決まったという先天的な説と、銀河が誕生し銀河団に取り込まれ相互作用する過程でかたちづくられたという後天的な説があり、はっきりとした結論は得られていません。HSC の威力によって、多くの銀河団の銀河分布が精度良く明らかにされるとともに、100億光年以上彼方の宇宙の原始的な銀河団も続々と発見されつつあります。また2020年代初頭にすばる望遠鏡に搭載される予定の、主焦点超広視野分光器、Prime Focus Spectrograph(PFS)による大規模分光サーベイにも大きな期待が寄せられています。同じ銀河団の進化を観測することはできませんが、シミュレーションでは同一の銀河団の進化をたどることができます。このような形成過程にある原始銀河団の観測と、図1のようなシミュレーションで再現された銀河団の進化を比較し、銀河団銀河の形成過程が明らかになると期待されます。