南極について | 広報活動

私たちハドロン宇宙国際研究センターが参加しているIceCube(アイスキューブ)実験は、南極点の「アムンゼン・スコット基地」に観測施設があり、広大な氷河を使って高いエネルギーを持つニュートリノという素粒子を検出する実験を行っています。南極点の氷河下に5160 個の光検出器モジュールを埋め込み、氷中を通過したニュートリノが原子核や電子とぶつかった際に発生するチェレンコフ光を検出しています。その情報をもとに、ニュートリノが来た方向を突き止め、宇宙のどこでニュートリノが作られ地球に飛んでくるのかを特定するのです。

南極点付近にそびえたつIceCube観測施設

11 月から2 月は南極の夏季にあたり、基地への飛行機の発着が可能になります。この時期、IceCube 実験に参加するたくさんの研究者らが貴重な極寒の環境へ実験をしに訪れ、南極点はとても賑やかになります。当センターの研究者らも、現地実験に出向しています。

公式南極気温表示ボード
公式南極気温表示ボード
©R. Busse, IceCube/NSF

南極点の平均気温

南極点の平均気温
ラーメンも凍っちゃう寒さ
ラーメンも凍っちゃう寒さ ©R. Busse, IceCube/NSF

南極点に行くには

南極へ出向することが決まった研究者らは、まず南極に入るための申請を行います。この申請には、様々な健康診断や予防接種、歯科検診を受け、その診断書やレントゲン写真などの提出が義務づけられています。最先端の医療とは隔離された環境に行くため、滞在中に病気になったりしたら大ごとです。事前の健康診断は多岐にわたり、健康状態に問題がある申請者には認可されない場合もあります。小さな虫歯でも、出発前に治療をし完治したという証明書の提出も必要になります。証明書は全て英文にて発行してもらい提出します。こうして、万全な健康状態で南極へ出発します。

様々な健康診断

現在南極へ渡るには、ニュージーランドかチリを経由します。当センターからの出向者は、ニュージーランドのクライストチャーチへ向かい、そこでアメリカ国立科学財団南極プログラム (USAP) にて南極滞在に関するオリエンテーションを受け、防寒具などの受け取りなどが行われます。極寒の環境に滞在する間に必要なギアは、全て貸し出されます。

ニュージーランドかチリを経由します
白い雪の中でも目立つ真っ赤な防寒具やブーツなどの貸し出し
白い雪の中で目立つ真っ赤な防寒具やブーツの貸し出し©L. Lu, IceCube

アムンゼン・スコット基地はアメリカが所有する基地なので、米軍機で南極へと移動します。軍用機の中は、搭乗者全員用の椅子はありません。研究員らは、飛行機の壁に取り付けられたシートベルトを装着して座ります。
また、周りには積み荷がいっぱいです。実験に必要な資材や精密機器のほか、大量の食料や生活必需品などを運びます。

米国の軍用機
米国の軍用機 ©L. Lu, IceCube
周りには積み荷がいっぱいです
旅客機と違い、乗客は飛行機の壁に沿って座る。©L. Lu, IceCube

クライストチャーチから南極点に直接向かうのではなく、南極大陸の南端部McMurdo(マクマード)基地に寄り、そこから南極点に向かいます。南極点での悪天候のために出発が延期されたり、着地できずに軍用機が引き返すことなどもあり、マクマード基地で何日も足止めされることもしばしばです。

アメリカの南極観測基地「マクマード基地」
アメリカの南極観測基地「マクマード基地」
アムンゼン・スコット基地への補給中継点となっている。年間を通して平均気温が氷点下であるが、
最暖月である12月と1月には、気温が氷点を上回ることがある。上の写真は1月初旬に撮られたもの。
地面に積雪はない。©K. Mase, IceCube

南極点の2つの標識

南極点には、 Ceremonial Pole (観光用の標識)とSouth Pole Marker (南極点標識)という2つの標識があります。

Ceremonial Pole ( 観光用の標識)

左記の南極点標識とは別に、観光用のCeremonial Pole という標識も立てられています。実際の南極点からさほど離れていない場所にあり、日本を含む南極条約に加盟する12 ヵ国の国旗がPole を囲むように立っています。

Ceremonial Pole (観光用の標識)
©L. Lu, IceCube
South Pole Marker (南極点標識)

南極点の氷床は1 年に10 メートルの速さで移動しているため、毎年測定が行われ、1 月1 日にSouth Pole Markerと呼ばれる南極点標識が付け替えられます。毎年とても素敵な標識がデザインされています。

South Pole Marker (南極点標識)
標識を付け替えるセレモニー
南極点を囲んで人が並び、新しい標識のデザイントップが人から人へ手渡しされ、最後に測定しなおされた
その年の「南極点」に設置される。新年に行われる大事なイベント。© J. Hardin, IceCube/NSF
これまでの南極点標識
2015
2015 © R. Busse, IceCube/NSF
2016
2016 © C. Krueger, IceCube/NSF
2017
2017 © M. Wolf, IceCube/NSF
2018
2018 © S. Richter, IceCube/NSF
2019
2019 © L. Lu , IceCube
2020
2020 © J. Hardin, IceCube/NSF
歴代のデザイントップのコレクション
歴代のデザイントップのコレクション。 ©K. Mase, IceCube

南極ライフ

マイナス40 度にもなる極寒の南極点ですが、研究員らが過ごす施設内では空調管理がされており、「極地の基地」といったシリアスなイメージとは異なり、いくつかの点を注意すれば、快適な生活がおくれます。

居心地のよい施設内
外は極寒だけど、居心地のよい施設内。食生活も充実し、楽しみもたくさん!
© K. Mallot, IceCubeNFS

施設の中は、生活に必要なものが全て完備されています。

居心地の良い寝室
研究員が寝泊まりする居心地の良い寝室。
©L. Lu, IceCube

エクササイズのための施設やリクリエーションも豊富です。

エクササイズのための施設
運動不足解消のためのジムも完備  © F. Pedreros, IceCube/NSF
楽器の部屋
楽器も一通り揃っています。 © K. Mase, IceCube
ムービーコレクション
映画のコレクションもすごい! ©K. Mase,  IceCube
超ビックなパズルに挑戦したり
超ビックなパズルに挑戦したり  © J. Werthebach, IceCube/NSF
寒くてもBBQは欠かせない!
寒くてもBBQは欠かせない! ©  M. van Rossem, IceCube/NSF
カラオケパーティが開かれることも。
カラオケパーティが開かれることも。 © B. Eberhardt, IceCube/NSF
ビュッフェ式の食事
© E. Beiser, IceCube/NSF

基地での食生活はなかなか充実しています。キッチンスタッフがいて、毎食ビュッフェ式の食事が用意され、南極点にいるとは思えないほどの質と量の料理が出ます。とにかく甘いアメリカンなデザートも!

料理を担当するスタッフが趣向を凝らし、世界中から集まる研究者たちのために食事を提供します。
料理を担当するスタッフが趣向を凝らし、世界中から集まる研究者たちのために食事を提供します。
料理を担当するスタッフが趣向を凝らし、世界中から集まる研究者たちのために食事を提供します。
料理を担当するスタッフが趣向を凝らし、世界中から集まる研究者たちのために食事を提供します。
料理を担当するスタッフが趣向を凝らし、世界中から集まる研究者たちのために食事を提供します。
料理を担当するスタッフが趣向を凝らし、世界中から集まる研究者たちのために食事を提供します。

食事の写真は全てIceCube Collaboration提供

料理を担当するスタッフが趣向を凝らし、世界中から集まる研究者たちのために食事を提供します。
時には故郷の味を味わえることも!雪堀ばかりの肉体労働が多い南極で、甘いものは特にうれしい。

普段は研究者らの生活を支えるスタッフがいるので、研究者らが自分で皿洗いをする必要はないですが、スタッフの休日には皿洗いなどのボランティア募集がでます。学生も古株の教官もみな協力的で、ボランティア精神もアメリカ流です。

皿洗いのボランティアをしているメンバー
皿洗いの手伝いをするIceCubeのメンバー © D. Riebel, IceCube/NSF/NOAA

極寒の南極では植物を育てることは難しく、生野菜はまとめて持っていけない為、施設内の温室でトマトなどを育てています。この温室の世話も大事な仕事です。

立派なグリーンハウス
立派なグリーンハウスを完備。© F. Pedreros, IceCube/NSF
大きなトマトも採れちゃう こんなに大きなトマトも採れちゃう。 © M.  Wolf, IceCubeNSF
生のフルーツ
温室があっても、生のフルーツは貴重品。 夏季になり飛行機の乗り入れが可能になると届くフルーツがまちどおしい。 ©R. Busse, IceCube/NSF

周りが一面氷河の南極ですが、多くの生活水を作るのにコストがかかり、水は大変貴重です。洗濯やシャワーは週1回まで。寒い南極点でお風呂に毎日入れないのは、特に日本人研究者にはつらいようです。

周りが一面氷河の南極
研究者はつらいよ。©M. Wolf, IceCube/NSF
雪堀りの毎日
極寒の中の作業は体力勝負、雪堀りの毎日。 © K. Mase, IceCube/NSF
IceCubeのメンバー
寒くてもいつも元気なIceCubeのメンバー © K. Mase, IceCube/NSF

2016年に調査のため南極点に滞在したIceCubeの研究員Kate Millerがアムンゼン・スコット基地の施設内とIceCube実験制御室(ICL)内を動画で案内しています。普段見れない施設内の様子や研究員らの生活を垣間見ることができとても興味深いです。

Tour of South Pole Station(英語)
© IceCube Collaboration
https://www.youtube.com/watch?v=vrPiVT23MhA

Tour of IceCube Lab(英語)
© IceCube Collaboration
https://www.youtube.com/watch?v=Dtm2-yOHiTk

2003年 吉田 滋教授
2003-2004年 吉田 滋教授
2009年 石原安野教授
2009-2010年 石原安野教授

ニュートリノ天文学部門のメンバーも南極に出向しています。
2003~2004年に南極点に初出向した際の体験に基づいて書かれた吉田教授の手記「南極の歩き方」もぜひご覧ください。

「南極の歩き方~猿でも生き残れる南極点~」ページはこちら

越冬メンバー(WO) について

IceCubeグループ内でWinter Over (WO)と呼ぼれる越冬メンバーの募集があり、毎年2名が選ばれ南極点に派遣されます。 WOに選ばれたメンバーは8月頃からWOとしてのトレーニングに入り、11月頃に南極点に向かいそれまでのWOの2人と交代します。冬季の間、南極点で行われている他の実験グループのWOやスタッフと共にアムゼン・スコット基地内に滞在し、様々な業務を努めます。

IceCubeの機器類のメンテナンス
IceCubeの機器類のメンテナンスは彼らの大事な仕事。 24時間体制でIceCubeの運用と保守に努めます。 © K. Mase, IceCube
サテライト放送
サテライト放送でイタリアの学生たちに南極点の様子を紹介したり。
© E. Bernardini, IceCube/NSF
外で寝転んでアイスクリームを食べちゃう強者WOも
外で寝転んでアイスクリームを食べちゃう強者WOも。
© B.Eberhardt, IceCube/NSF
WOとしてのトレーニング
2020年のWOは、アメリカ人のJohnと当センターに所属していた牧野研究員。 © Y. Makino, IceCube/NSF

11月から翌年の2月頃までの極寒の南極点での厳しい任務ですが、越冬隊ならではの特権もあります。 それは、極夜のシーズンを体験できることです。
南極の冬季にあたる3月以降は航空機の乗り入れも制限され、研究者の出入りはできません。 5月末~7月中旬は極夜といって、一日中太陽が地平線から昇らない時期があります。これは、地球の地軸が傾いているため、北端(北極点)と南端(南極点)に近い地域に太陽光が当たらなくなるため起こる現象です。極点に近づくほど極夜の期間が長くなり、南極点では約半年間極夜がつづきます。
終日夜のため、不便な点も多いですが、美しいオーロラを見ることができるのはこの期間だけです。

多くの研究者が南極入りを許される夏季は、この極夜とは反対に太陽がほとんど沈まない白夜の時期にあたり、オーロラを肉眼で見ることは難しくなります。
南極点で美しいオーロラを堪能するにはWOとして南極点で越冬するしかないようです。

南極点で美しいオーロラ
© J. Werthebach, IceCube/NSF
地平線にうっすら見える太陽の光
地平線にうっすら見える太陽の光 © M. Wolf, IceCube/NSF

WOの業務の一つに、IceCubeグループに毎週メールで送信されるWeeklyレポートがあります。 美しい南極の写真や楽しいエピソードが載っていて、毎週楽しみです。 (下の画像をクリックすると拡大画像が開きます。)

美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード
美しい南極の写真や楽しいエピソード

WOが発信するWeekly Report(英語)はIceCubeのHPで公開されています。ぜひのぞいてみてください。

IceCube 「Week at the Pole](英語)はこちら