OCTYPE html> センター長挨拶【吉田 滋】| 千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター

センター長あいさつ

センター紹介

センター長

宇宙には、光のスピードで降り注ぐ、物理学の言葉で言うならば「エネルギーの高い」物質の束が存在しています。その大半は物質の基本構成要素である陽子で、それは宇宙線と呼ばれています。この中には、目に見える光(可視光)に比べて1000兆倍以上もエネルギーの高いものがあります。
いわば極限宇宙の産物とも言えるこの宇宙線はどのように作り出されたのでしょう?

ハドロン宇宙国際研究センターは、この宇宙物理学上最大の謎を解き明かすことを研究ミッションとして掲げています。その具体的手段として、素粒子の一つである「ニュートリノ」を捉えることで極限高エネルギー宇宙の現場を調べる手法を用います。「ニュートリノ天文学」と呼ばれる21世紀の新しい天文学であるこの手法は、宇宙における粒子加速機構を探る決定打として期待されています。謎の解明を阻んできた壁の多くが貫通力が高く電荷を持たない中性粒子であるというニュートリノ性質によって打破可能であると考えられてきたからです。しかし宇宙ニュートリノの検出は非常に困難でした。めったに物質と衝突することなく貫通力が高いニュートリノの性質は宇宙探査には極めて有用ですが、その性質ゆえに、検出器を作っても大半のニュートリノは痕跡を残さず素通りしてしまいます。存在したとしても、希少な高エネルギーニュートリノが稀に残す痕跡を捉えるには巨大な体積を持つ検出器が必要とされるのです。試行錯誤のあげく、南極大陸にある氷河を検出体に使おうという野心的な発想が生まれ、10ヶ国国際共同実験「IceCube」プロジェクトがスタートしました。
千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターは日本からの唯一の参加研究機関です。IceCube実験装置は南極点直下の米国アムンゼン・スコット基地に7年余りの歳月をかけて建設されたました。そこには、ニュートリノがごく稀に氷河と衝突して放射する微弱な紫外光を捉える検出器5160台が、深氷河に埋設されています。

2011年より完全稼働に入ったIceCube実験の観測データから、私達日本グループは可視光に比して1000兆倍も高いエネルギーのニュートリノ事象を発見しました。これは粒子を加速する宇宙「エンジン」によって作られたニュートリノが実在することを示唆する世界初の観測結果です。2013年に2編の論文として正式に公表したこの成果では、宇宙全体の高エネルギーニュートリノの存在量の推定まで可能となりました。ニュートリノによる極限宇宙の探査が始まったのです。この大きな進展に私達ハドロン宇宙国際研究センターが大きく貢献できたことは素晴らしい出来事でした。私達は引き続きIceCube実験による観測研究により高エネルギー宇宙線源の同定を目指します。さらにIceCube 実験の高エネルギー領域拡張実験である ARA 実験の建設によって現時点での超高エネルギーニュートリノ検出効率を10倍に引き上げるという2本柱で研究活動を展開していきます。

二本の柱ではありますが、それぞれは独立ではなく相互に密接しています。ARA 実験は南極点にある IceCube 実験サイトに隣接した場所に建設されます。検出原理がIceCube 実験と異なるため、IceCube 実験による観測・測定結果と比較しながら進めていくことが重要です。両者を的確に組み合わせていくことで、我々日本グループはPeV(可視光の1000兆倍)からEeV (=1000 PeV) という極限高エネルギー領域における宇宙ニュートリノを観測し、宇宙物理学における最重要課題の一つである「粒子を光速に加速する宇宙エンジンの起源」を理解することを目指していきます。このために極限高エネルギー領域にある宇宙ニュートリノの量を決定し、ニュートリノ到来方向分布を描画します。ニュートリノの量は、宇宙開闢以来、宇宙エンジンがどのような歴史を辿ったのかを探る指標になります。その歴史が分かればエンジンのメカニズムについて重要な示唆を得ることができます。遠方の宇宙探査に力を発揮するニュートリノの真価が発揮されることになるのです。到来方向からは放射天体の同定が可能となります。より角度分解能の良い伝統的な電磁波観測と同期観測が天体同定には有利ですので世界のγ線望遠鏡と連携するための準備も始めています。この目標に向かって、検出装置製作から観測データ解析に至る様々な活動を行っていく予定です。

宇宙エンジンのメカニズムの理解には観測による研究だけでなく、大規模計算機を駆使した数値実験による手法も大きな助けになります。宇宙自体を実験室に入れてコントロールすることができないからです。しかし私達が仮説として考える宇宙エンジンモデルを計算機に入れてシミュレーションし、観測データと比較することができれば、実験室における実験が果たす役割をある程度まで代替することができます。この方向における研究の進展も近年の爆発的なコンピュータ能力の増大の恩恵をうけて大きく進展しています。ハドロン宇宙国際研究センターではこの数値実験の手法による研究を並行して推進しています。効率的に電子を加速する機構の数値計算による研究や、宇宙「エンジン」の候補である大輝度天体周辺のプラズマダイナミクスとそれに付随するハドロン粒子・X線放射を数値計算によって解き明かすというターゲットを掲げています。

千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターの研究活動とその成果にご期待ください。

ハドロン宇宙国際研究センター長 吉田 滋