ガンマ線天文学 | マルチメッセンジャー天文学

ガンマ線は電磁波の一種です。波長が最も短い(エネルギーが最も高い)ものの総称なので、「ガンマ線」という言葉が示す波長域は6桁以上にも及びます。

電磁波スペクトル
電磁波スペクトル ©Philip Ronan, Gringer

電子ボルト:エネルギーを表す単位で、数電子ボルトが可視光、数千電子ボルトがX線に対応しています。X線から10億電子ボルト程度のガンマ線は、宇宙から飛んできても地球の大気と反応して消えてしまいます。その反応の前にガンマ線を検出するには、人工衛星を用いた観測が必要になります。

CGRO衛星
CGRO衛星 ©NASA

ガンマ線天文学の歴史は比較的浅いです。例えば1970年代にガンマ線バーストと呼ばれる天体種が軍事衛星Velaによって発見されましたが、どのような天体がガンマ線を放射しているのかは長年謎に包まれていました。90年代に入り、CGRO衛星によってようやくガンマ線天文学が本格化しました。同衛星のBATSE検出器により、ガンマ線バーストは全天に一様に分布しているとわかり、我々の住む天の川銀河の外、遥か遠くの天体であると確実視されるようになりました。また同衛星には1億電子ボルト以上のガンマ線を特化して調べるEGRET検出器が搭載されており、200以上ものガンマ線源を発見しましたが、その半数以上は未知の天体であり、その正体を探るために多波長天文学の必要性がより明らかとなりました。

MAGIC望遠鏡
MAGIC望遠鏡 ©Giovanni Ceribella

ガンマ線のエネルギーが100億電子ボルト以上になると、大気との反応が非常に強くなるので、地上に設置した望遠鏡でもその反応が見えるようになります。特にガンマ線が作り出す電子・陽電子の雪崩現象(空気シャワー)では、前方にチェレンコフ光を発することが知られています。この光を地上の望遠鏡で捉えるのが「大気チェレンコフ望遠鏡」です。この検出方法を用いた研究は1990年代にCGRO衛星の結果を受けて活発化し、2000年代に花開いた、比較的新しいものです。


大気チェレンコフ望遠鏡検出原理 ©MAGIC

現在稼働中の主な大気チェレンコフ望遠鏡としては、ナミビアにあるHESS、アメリカにあるVERITAS、スペインにあるMAGICが知られ、本研究室のメンバーはMAGIC望遠鏡で活躍しています。MAGIC望遠鏡の最も大きな成果の一つは、1兆電子ボルトに及ぶ高エネルギーのガンマ線を放射するガンマ線バーストの発見です。発見以来半世紀に渡る研究により、ガンマ線バーストの素性はある程度理解されてきており、大きな星の死に伴う超新星爆発が関係していることが知られています。一方で、その際にどのような仕組みでガンマ線を放射するのか、粒子をどこで加速するのかといった基本的なことはまだ全くと言っていいほどわかっていない状態です。

ガンマ線バースト天体想像図
ガンマ線バースト天体想像図 ©ICRR/Naho Wakabayashi

MAGIC望遠鏡では2019年1月に発生したガンマ線バーストを直後から観測し、史上初めて1兆電子ボルトのガンマ線を検出しました。これによりガンマ線バーストの放射機構は2段階あり、加速された電子の放射するシンクロトロン放射に加えて、加速電子が光子をさらに叩き上げる逆コンプトン散乱と呼ばれる機構が大きく作用していることがわかりました(本研究室メンバーの野田が大きく貢献)。この発見以降、大気チェレンコフ望遠鏡によるガンマ線バースト検出が相次いでおり、今後も大気チェレンコフ望遠鏡は同天体の理解に重要な貢献をしていくと期待されています。

「マルチメッセンジャー天文学」
MAGIC望遠鏡はマルチメッセンジャー天文学の始まりとなったIceCubeイベント 170922Aにおいても貢献しました。ニュートリノの検出、ブレーザーの可視光での増光と同期して、数千億電子ボルトのガンマ線の増光をMAGIC望遠鏡で検出しました<バックリンク>。一方、このようなブレーザーだけではIceCubeで検出されたニュートリノをすべて説明できないことが知られています。つまり、地球に飛来するニュートリノの大部分は、どの天体が放出したのかわかっていません。本研究室では、IceCubeやMAGIC、さらには次世代大気チェレンコフ望遠鏡であるCTA LST(下図)を用いて、未知のニュートリノ源をガンマ線やX線で発見し理解を深めることを目指しています。特に低輝度ガンマ線バーストと呼ばれる種族はニュートリノ源の候補として注目を集めており、ニュートリノとガンマ線・X線での同時観測が期待される天体種です。

CTA北サイト
Cherenkov Telescope Array(CTA)計画想像図(北半球サイト)©Gabriel Pérez Díaz, IAC

2010年代に、稼働中の大気チェレンコフ望遠鏡の研究者たちが中心となってより大きな次世代計画Cherenkov Telescope Array(CTA)の策定が始まりました。

マルチメッセンジャー天文学元年とも言える2017年は、CTAの1台目大口径望遠鏡(LST)の建設が進んでいる段階でした。これが2018年に完成し、2023年現在も観測を続けています。残り3台のLSTは2025年までに完成予定であり、2026年から4台での観測を目指しています。マルチメッセンジャーを用いた天体の理解は、CTAやIceCube(Gen2)に課せられた重要なテーマです。本研究室ではLSTとIceCubeのシナジー(相乗効果)を高めるよう日々研究しています。