ICEHAP NEWS vol.9
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 超大規模数値実験が故、これまでは限られた条件下でしか加速メカニズムの性質を探ることができませんでした。冷たいプラズマから宇宙線に変貌する粒子の割合はどれくらいか? などの加速効率の問題が残されています。それらを明らかにするためには、今回と同様の大規模な実験を複数回繰り返す必要があります。また長時間計算を実施することで、宇宙線ができる様子まで再現できるかもしれません。 いずれにしても、解析するデータがペタバイトクラスとなるため粘り強く研究に取り組む必要がありますが、その先には宇宙線の起源を明らかにすることができると期待されます。 宇宙には高エネルギーの荷電粒子が飛び交っており、これを宇宙線と呼びます。その発見から100年以上たった現在においても、どのような物理メカニズムで冷たいプラズマ中の荷電粒子が10桁以上も高いエネルギーを持つ宇宙線へと変貌するかを理解することがチャレンジングな問題として残されています。とりわけ、高エネルギー天体からの電磁波は、ほぼ光速で動きまわる電子によって放射されていると考えられていますが、この相対論的なエネルギーを持つ電子がどのようにして作られたかは、宇宙物理学の謎の一つとして残されています。 我々はスーパーコンピュータ「京」が有する計算能力の約10%(73,728計算コア、100テラバイト物理メモリ)を駆使してプラズマの第一原理計算を行い、強い天体衝撃波*1の3次元構造を世界で初めて明らかにしました[1]。ペタバイト*2に上る膨大なデータを解析することにより、冷たい電子が相対論的なエネルギー(ほぼ光速で運動するエネルギー)まで加速する様子を示すことに成功しました。冷たい電子は衝撃波と相互作用する過程で、1. コヒーレント*3な電場の波と共鳴する共鳴型加速、2. 強い乱流磁場に散乱されながら加速する統計的加速の2段階を経ることがわかりました。前者は波に捕捉されながら加速される様子からサーフィン加速と呼ばれ、後者は衝撃波面を横滑りしながら加速するドリフト加速と呼ばれます。 衝撃波面近傍で卓越する強い乱流磁場によってドリフト運動中の電子は散乱され、多くの粒子が下流へ流される間も上流側に留まり、加速し続ける粒子が存在することが明らかになりました。この強い乱流磁場によって高エネルギー粒子を衝撃波面近傍の加速領域に長時間閉じ込めることが可能であることから、本成果は冷たいプラズマと宇宙線粒子をつなげる有望な加速メカニズムとして期待されます。(上段)衝撃波の3次元構造。色は電子密度を表す。(中段右)衝撃波の上流側で電場の波(色)と共鳴するサーフィン加速中の電子の軌道(球)を表す。(中段左)衝撃波近傍の強い乱流磁場(色)によって散乱されながら波面に沿って横滑り(ドリフト)する電子の運動の様子。Matsumoto et. al. PRL 2017より改編。(下段)それぞれの加速メカニズムに対応するイメージ図。[1] "Electron sur ng and drift accelerations in a Weibel-dominated high-Mach-number shock", Y. Matsumoto et al., Phys. Rev. Lett. 119, 105101(2017)*1 衝撃波 = 物体が進む速さが音速を超える場合に生じる強く圧縮されたガスの構造。*2 ペタバイト = データ力やコンピュータの記憶装置の大きさを表す単位。 1ペタバイト=約1125兆バイト。*3 コヒーレント = 波動が互いに干渉し合う性質を持つさま。宇宙から飛来する高エネルギー粒子誕生の謎スパコン「京」を用いた1兆粒子計算今後の展望理学研究院・特任准教授プラズマ宇宙研究部門松本洋介スーパーコンピュータ「京」を使った1兆粒子シミュレーションで強い天体衝撃波の3次元構造を世界で初めて解明Report now 2

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