ICEHAP NEWS vol.8
2/6

  南極点深氷河に展開するIceCube実験は、高エネルギー宇宙ニュートリノ事象候補を即時解析し、世界の天文観測施設にアラートを送信するシステムの運用を2016年4月より開始しました。これにより、様々な天文観測チャンネルの観測データを組み合わせ、時刻と到来方向の相関をとることで、ニュートリノ放射天体の同定が可能となります。千葉大学グループは、超高エネルギー帯 (100TeV から EeV)の宇宙ニュートリノ検出感度に特化したアラートである通称 "EHE"(Exteremly-High Energy)セレクションの開発を担当し、これはもう少し低いエネルギー帯に感度がある "HESE" セレクションとともにIceCubeの2大アラートチャンネルです*1。 2016年7月31日に最初の EHE イベントアラートが配信されて以降、2017年8月までの約1年間に4本のアラートを配信し、γ線望遠鏡などによる追観測が行われましたが、天体同定には至りませんでした。EHE セレクションでは確率的に約半分の事象が、雑音である大気ニュートリノですので、この結果は驚くには及びませんが、吉報を期待して待ち続けながら秋を迎えました。 日本時間9月23日の朝5時54分に、EHE セレクションによって高エネルギー事象が同定されました。水平にIceCube検出容積内を突き切るミューオントラックで、典型的な高エネルギー事象です(図1)。総チェレンコフ光量*2に基づく初期エネルギー推定は 120 TeV、オフライン解析による最終推定値は 290 TeV であり、約50% の確率で宇宙ニュートリノであると判定されました。事象検出後43秒後に最初のアラートが、4時間後に詳細解析情報を記載したGCN サーキュラーが配信されました。 IceCube 170922A と名付けられたこのニュートリノからの放射天体が同定されれば、ニュートリノを生み出した親となる宇宙線陽子のエネルギーは*1 ICEHAP ニュース第4号に記事掲載。論文はAstropart.Phys. 92 (2017) 30-41*2 チェレンコフ光 荷電粒子が物質中を運動する時、荷電粒子の速度がその物質中の光速度よりも速い場合に光が出る現象。IceCubeは、ニュートリノが氷河中で放出した荷電粒子が発生するチェレンコフ光を捕らえる。 Fermi-LAT は Fermi衛星*3に搭載されたγ線観測装置で、20MeV から 数100GeV 程度のエネルギー帯のγ線天文学研究を行っています。既知のγ線放射天体は Fermi-LAT Source Catalog として公開されており、その中のブレーザー天体(BL-Lac 型)TXS 0506+056 が ニュートリノ事象到来方向に存在していることが分かりました。さらに Fermi-LAT チームが公開しているFAVA と呼ばれるγ線光度変動解析チャンネルで、この天体が同年4月から活動を活発化し、通常時の最大約6倍の輝度でγ線を放射していることが分かりました。さらには、地上設置高エネルギーγ線望遠鏡 MAGIC が ニュートリノ事象検出32時間後から 約10日間をかけた総計13時間弱に及ぶ集中観測を行い、この天体からの 100 GeV を超える高エネルギーγ線放射を検出しました。高エネルギーニュートリノ事象と方角・時刻ともに同期したγ線放射が史上初めて検出され、その放射天体が同定されたのです。PeV(1000 TeV)を超えるため、まさに待ち望んだ高エネルギー宇宙線起源天体(PeVatronとも呼ばれます)を明らかにしたことになります。世界中の天文施設が追観測を始めました。IceCube による天体ニュートリノアラートIceCube 170922 AFermi-LATとMAGICγ線望遠鏡による追観測 理学研究院・教授ニュートリノ天文学部門吉田 滋高エネルギー宇宙ニュートリノ信号が拓いたマルチメッセンジャー天文学ー IceCube170922A による宇宙線起源天体の同定 ーReport now 1図1:2017年9月22日に検出した宇宙ニュートリノイベント(チェレンコフ光の分布図)。各球は氷河内に埋設された検出器、球のサイズはその検出器でうけたチェレンコフ光の量を示す。色は検出したタイミングを表し、赤→青の順に信号が記録された。

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る