ICEHAPNEWS vol.7
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  その結果、乱流場が磁束管を激しく揺さぶると、我々が発見した「磁気ポンプ」というメカニズムによって圧縮性の磁気音波が生じ、磁束管が固有振動数(約4分周期)で恒常的に振動することがわかりました(図1下段右)。こうした乱流と磁場が奏でるアンサンブルによって衝撃波加熱が継続し、彩層を加熱し維持するのに十分なエネルギーを供給していることがわかりました。 今回の研究成果は、「太陽大気の加熱問題」を解く重要なステップになっただけでなく、ブラックホールのような未だに姿すら捉えられていない天体の周囲にある高温プラズマの正体を探る鍵にもなると期待しています。 太陽の中心核は水素の熱核融合反応が持続できる高圧高密度な百万度のプラズマです。核融合によって生じたエネルギーは、まず放射によってじわじわと太陽半径の7割程度まで運ばれ、対流によって表層にある6千度の光球面まで運ばれます(図1下段左)。対流で生じた光球面の乱流を可視光望遠鏡で撮影すると、 まるで味噌汁が鍋で煮えたぎっているような対流模様(粒状斑*1)が見えます(図1上段左)。 通常、熱源から遠く離れるほど温度は低下するはずですが、実際には光球の上空で温度が上昇します。それが皆既日食の時、太陽の縁を彩る1万度の彩層とその外側を包み込むように淡い光を発する百万度のコロナです。これは彩層とコロナに何らかの熱源があることを示唆しています。この謎の熱源を探ることが太陽物理学の積年の課題である「太陽大気の加熱問題」です。 最近、私の国際研究チーム(ドイツとノルウェー)は、対流と磁場の相互作用で生じる圧縮性の磁気流体波動が衝撃波となり、彩層を加熱・維持できることを世界最新の太陽大気のシミュレーションで突き止めました。 太陽大気には様々な天体に共通する多彩なプラズマ物理現象が段階的に存在するため、太陽大気のシミュレーションには多様な物理過程が組み込まれています。さらに地上や衛星の望遠鏡で太陽大気のプラズマの動きが手に取るように見えることから、宇宙プラズマの実験室と呼ばれています。 光球面上には黒点の他に1kGの強い磁場をもつ直径100㎞程度の小さな磁束管が無数に存在します。この磁束管*2はスピキュールと呼ばれる細長い複雑な構造を彩層やコロナに作ります(図1上段中央および上段右)。こうした磁束管と対流で生じた乱流場との複雑な非線形相互作用を調べるため、私はドイツとノルウェーに足掛け7年間滞在し、世界最新の太陽大気シミュレーションコードを用いて研究してきました。*1 粒状班(りゅうじょうはん)=太陽光球面に見られる対流模様。穀物の粒を敷き詰めたように見えることからそう呼ばれる。*2 磁束管=空間内の曲面を通り抜ける磁場の流束。*3 太陽観測衛星「ひので」=日本の国立天文台 (NAOJ) と宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部 (JAXA/ISAS) がアメリカのNASA、イギリスのMSSLと共同で開発し、コロナ加熱問題や、太陽フレアなどコロナ内部における爆発現象の発生過程の解明を主な目的とする太陽観測衛星。図1:(上段左)太陽観測衛星「ひので*3」が撮影した光球面上の粒状斑。(上段中央)「ひので」が撮影した彩層やコロナに突き出しているスピキュール。 (上段右)太陽大気構造の概念図(Rutten 2012)。        (下段左)太陽内部と太陽大気の模式図。              (下段右)我々の研究グループが行なった太陽大気構造のシミュレーション結果。磁束管の内部で衝撃波が生じている。色は温度、黒線は磁力線、白と黒の線は光球面を表す。白い点線よりも上空は磁気エネルギーが卓越する領域を表している。太陽大気が熱い理由とは?乱流と磁場のアンサンブル大学院理学研究院 特任研究員プラズマ宇宙研究部門加藤 成晃太陽大気を熱くする鼓動の源を探るReport now 2

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