ICEHAPNEWS vol.7
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図1:HD142527でのダスト密度・温度分布。Muto et al. (2015) PASJ, 67, 122より転載図2:336GHzの電波で見たHD142527。Soon et al. (2017) PASJ 69, 34より転載 円盤の表面に近い塵は、星からの可視光により温められ遠赤外線を放射します。この遠赤外線が円盤の内部にある塵を温めます。放射により温められた塵は周りのガスを温め、円盤を膨らませます。円盤が膨らむと星からの放射が当たりやすくなるので、これらの効果が釣り合う状態を探す必要があります。私が担当したのは、観測された波長0.9mmのサブミリ波の強度分布を再現する塵の分布です。この星の原始惑星系円盤は、三日月、あるいはバナナと呼ぶのが相応しい形をしています(図2)。塵は私たちから見て東北側に片寄っていて、南西側は塵がとても少なくなっています。その対比は塵の面密度で約100倍であることを見積もりました。 太陽系はもともと巨大なガスの雲だったとする考えは、18世紀にカントやラプラスにより提唱されています。20世紀後半になるまで、この星雲説は有力な仮説にとどまっていました。しかし、近年状況は大きく変わっています。太陽系を作った円盤はもはや消失していて見えませんが、若い恒星の周囲には惑星の母体と思われるガスや塵からなる円盤が見つかるようになってきました。 すばる望遠鏡など口径が8m級の大型望遠鏡では、円盤中の細かい塵による反射光が観測できます。チリに建設された電波望遠鏡ALMA*1では、より大きな塵が放射するサブミリ波*2で円盤の構造を明らかにすることができます。これらの塵は原料なので、その量や分布はどのようにして惑星が出来てきたかを探る重要な証拠です。ALMA望遠鏡の視力は「6000」に達すると見積もられています。この視力だと、太陽-地球の距離(=1天文単位)だけ離れた2点を、300光年離れたところから見分けることができます。 しかしALMA望遠鏡の写真からだけで、塵の分布や量を測ることはできません。サブミリ波は塵の量と温度の両方に比例します。サブミリ波で明るい場所は、塵が集まっているところか温度が高いところか区別しなくてはなりません。私たちはHD142527という若いFe型星の周りの円盤について、ALMA望遠鏡で撮像された波長0.9mmの電波強度から、塵の分布と量を推定するという研究を行いました(図1)。50100150200250300r (au)020406080z (au)東北側202040406060608080塵の密度(対数) -17.5-17.0-16.5-16.0-15.5-15.050100150200250300r (au)020406080z (au)4040606080南西側等高線は温度赤緯(秒角)赤経(秒角)長軸奥手前北東PA'=0°3210-2.0-1.5-1.0 log[I*obs/(1 Jy asecー2)] -0.50.00.5-1-2-3-33210-1-2*2 サブミリ波=波長0.1~1㎜,周波数 300~3000GHzの範囲の電磁波。遠赤外線の一部。*3 散乱断面積=量子力学において、入射粒子が散乱される確率を標的粒子の断面積として表わす量。*1 電波望遠鏡ALMA=アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計。ミリ波・サブミリ波などの波長の短い電波によって銀河・星・惑星系の形成や宇宙における物質進化などの解析や解き明かすことを主目的とする大型電波干渉計。 この見積もりでは、塵は0.9㎜の電波を吸収するより散乱させる方が10倍高い確率で起こるとする、これまでの定説を採用しました。しかしこのモデルでは円盤の北北西部分を再現することができません。北北西では円盤を斜めに見るため、定説に従うと、私たちの方向に届くサブミリ波が弱くなってしまいます。塵による散乱が定説の1/10以下でないと、円盤全体の明るさを説明できません。これまで塵は一様な密度をもつ球として吸収や散乱の断面積が求められてきましたが、実際の塵はもっと複雑で、散乱断面積*3がもっと低いのではないかと考えています。 ALMAで見えてきた原始惑星系円盤には、腕やリングといった構造を示すものが見つかっています。これらの構造は惑星によってできたと考える人も多くいます。もしこの考えが正しいなら、今、まさに惑星の形成が見えてきたことになります。見えてきた原始惑星系円盤円盤の塵が電波で見えるわけ先進科学センター 教授プラズマ宇宙研究部門花輪知幸惑星を作る塵Report now 1

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