ICEHAPNEWS vol.6
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質量が銀河に匹敵するほど大きく、ハローの構造を理解するには不十分でした。 我々は理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」や、国立天文台の「アテルイ」の強力な計算パワーを活かし、宇宙初期から現在にいたる最大約5500億個ものダークマター粒子の重力進化を計算しました。計算した空間サイズは、最大で一辺がおよそ54億光年にも及ぶ広大なものです。これほど大きい空間でのシミュレーションとしては世界最高の分解能*1であり、銀河スケールのハローの階層的形成を追うシミュレーションとしては世界最大です。 用いた重力多体シミュレーションコード、GreeM は研究グループのメンバーらが開発してきたもので、ハイ・パフォーマンス・コンピューティングに関する国際会議、SC12 (2012年、米国・ソルトレイクシティ開催)でゴードン・ベル賞を受賞しました。 シミュレーション結果から、質量スケールに換算しておよそ8桁にもおよぶ範囲でのハローすべての階層的構造形成史をモデル化し、数値カタログとしても公開しました。さらにその上で、準解析的銀河形成モデルという手法を用いて我々が目にする銀河や活動銀河核の形成を追い、大規模天体サーベイ観測*2と直接比較可能な、様々な天体の疑似カタログを整備し公開しました。初期宇宙から現在にわたって、多種多様な天体の形成、進化過程、そして空間分布を探ることができるようになったのです。 宇宙には、われわれが直接見ている原子などの物質のほかに、ダークマターと呼ばれる物質が質量で5倍程度存在するといわれています。ダークマターは重力でのみ相互作用し、宇宙の重力的な構造形成、進化の主要な役割を果たしています。そして重力によりハローとよばれる巨大な構造を形成し、その大きさは、ハロー内部に存在する、光り輝く銀河のおよそ10倍にもなると考えられています。 ハローはまず小さいものが形成し、それらが合体を繰り返すことで大きく成長していきます。このように、階層的に構造を形成しながら、ハローの中で星や銀河などの天体が形成していったと考えられています。またハロー内部の銀河が合体すると、大量のガスが銀河中心に存在するブラックホールに供給され、ブラックホールが成長するとともに、活動銀河核として光り輝いたと考えられています。 ハローの空間分布をシミュレーションから明らかにすることで、銀河や活動銀河核の空間分布も推定することができます。ところが、生まれて間もない宇宙では、まだ構造が十分に発達しておらず、銀河や活動銀河核を宿すような大きいハローは多くありません。このようなハローの進化を解明するためには、より広大な宇宙空間をシミュレーションする必要があります。しかし、これまで世界中で行われてきたシミュレーションでは用いる粒子数が不足していて、ひとつのシミュレーション粒子の*1 分解能 接近した二つの点や線を分離して見分ける能力。■131億年前■117億年前■80億年前■現在*2 天体サーベイ観測 統計的な議論ができるような比較的広範囲な領域に対して行われた、望遠鏡によるさまざまな天体の観測。図1:ダークマターの分布の進化。明るさはダークマターの空間密度を表し、明るいところは密度が高くなっています。宇宙が生まれてすぐはほぼ一様(左)ですが、時間が経つにつれて(順番に右へ)重力により集まり、大きな構造が形成されていきます。現在時刻では一辺が約3.3億光年に対応します(PASJ, 2015, 67, 61; http://hpc.imit.chiba-u.jp/~nngc/)。ダークマターに満たされた宇宙スーパーコンピュータを用いたシミュレーション統合情報センター 准教授プラズマ宇宙研究部門石山智明スーパーコンピュータによる、宇宙初期から現在にいたる世界最大規模のダークマターシミュレーションReport now 2

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