ICEHAPNEWS vol.5
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ギーのニュートリノとしては、放出エネルギーが低すぎます。これらがUHECR起源であるためには、より高いエネルギーの事象も一緒に観測されていなくてはモデルと矛盾します。 つまり、これらはUHECR起源ではなく10-100PeVのエネルギーを持ついわゆる宇宙線スペクトラムのknee領域*3にあたる宇宙線起源天体から来たと考えられます。ここから、今回の解析によってニュートリノ観測によるUHECR起源天体に対する強い制限をつけることが出来ました。 表に本解析から得られたモデルに対するp-value*4を示します。FRII進化モデルは、3σ(=有意水準 99.7%)より強いレベルで棄却されることがわかります。また、本解析で初めて、SFR進化モデルに対しても、制限が付き始めました。これまでUHECR源はUHECR到来方向の一様性や高エネルギー天体分布観測により、我々の近傍よりは、比較的遠方(若い)宇宙に多く存在し、GRBやAGNといった、多くの高エネルギー光を発する天体がそうであるように、少なくともSFRより強い宇宙論的進化をしていると考えられてきました。 しかし、本解析は、UHECRが陽子だとすると、その起源天体の宇宙論的進化は弱く、つまり、比較的年を取った我々の近傍宇宙にあることを示唆しています。しかし、我々の近傍にあるUHECR生成天体の候補は多くありません。また、UHECR起源天体は高いエネルギーの光も放っているだろうという一般的な予想とも異なる結果となったのです。ただしUHECRが重い原子核だとするとUHECR起源のニュートリノ生成率は低くなるので、本解析結果との矛盾はなくなります。これまで観測が非常に難しかったUHECR起源天体に、ニュートリノから迫る今回の結果はPhysical Review Letters誌の "PRL Editors’ Suggestion" に選出され、同誌12月号に掲載されます。 宇宙で最高のエネルギーを持つ粒子を生み出すUHECR起源天体はわれわれの近傍に存在するのに、何らかの理由で隠れていてまだ見つかっていないのでしょうか。それともUHECRは鉄のような重い原子核なのでしょうか。現在開発中の次世代宇宙ニュートリノ検出器、IceCubeの5倍を超える検出感度を持つIceCube-Gen2実験や超高エネルギーニュートリノに特化した電波ニュートリノ検出器ARA*5によるさらなる高統計解析での解明が待たれます。*3 Knee領域=宇宙線スペクトラムの"ひざ"と呼ばれるUHECRに比べてエネルギーが約3桁低い領域。*4 p-value=仮説の統計的有意性を測るもの。p値が小さければ小さいほど、仮説を棄却する統計的有意性が高いことを示す。*5 ARAに関しては、次ページのREPORT NOW2もあわせてご覧ください。*K.Kotera, et al., JCAP 10, 013 (2010), **R. Aloisio et al., JCAP 10, 006 (2015)本解析で検出した2事象のうちの一つで、2012年11月16日に検出器の端っこで起こった上向き粒子シャワー事象。これまでのIceCubeデータの解析によって観測された中で4番目にエネルギーの高い粒子シャワー事象で、上向きの粒子シャワー事象の中では最もエネルギーの高い事象。0.77PeVのエネルギーが粒子シャワーとして放出された。本解析で検出した2事象のうちのもう1つの上向きトラック事象。これまで観測された中で最もエネルギーの高いニュートリノ事象。2.6PeVものエネルギーがIceCube検出器内に放出された。異なったUHECR進化モデルより期待される超高エネルギーニュートリノの事象数と観測から導かれたp-value。UHECRが陽子だとするとSFR(星形成率) より、宇宙論的進化の弱い天体であることを示唆する。UHECR陽子と宇宙背景放射との相互作用によるニュートリノモデル期待される超高エネルギーニュートリノ事象数(2426日)p-value (%)Koteraモデル* SFR進化3.622.3Kotera モデル* FRII進化14.7<0.1Aloisio モデル** SFR進化4.87.8Aloisio モデル** FRII進化24.7<0.1最高エネルギー宇宙線天体は近所にあるのか? それとも?図1図2表

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