ICEHAPNEWS vol.5
2/6

  宇宙に存在する粒子の中で、最も高いエネルギーを持つものを最高エネルギー宇宙線(UHECR)といいます。最高エネルギー宇宙線が持つエネルギーは1018-20eV(=1-100EeV)にもなり、LHC加速器*1が作り出す陽子のエネルギーの1億倍ものエネルギーになります。 このような地球で検出される高エネルギーの宇宙線は主に陽子と原子核からなることが知られています。しかし、その起源はわかっていません。これらUHECRは、宇宙に広がる背景放射光や天体内外の光やガスと相互作用を起こし、超高エネルギーニュートリノを生み出します。そしてニュートリノは親UHECRの平均5%のエネルギー(つまり50PeV-5EeV)を持ち、遠方(=若い)宇宙から真っすぐに伝搬して来ます。 遠方宇宙の高エネルギー現象の光による直接観測というのは、宇宙の背景輻射*2の霧に遮られおり、非常に難しく、宇宙の死角となっています。また、荷電粒子である陽子や原子核からなるUHECRは、地球に到達するまでに、宇宙空間の磁場によって進路を曲げられてしまいます。 さらに、100EeVともなるとUHECRといえども背景輻射に遮られ遠方宇宙からは届かなくなり、近傍宇宙で生成されたUHECRしか、地球にはたどりつけなくなります。このため、遠方高エネルギー宇宙には多くの謎が残っています。超高エネルギーニュートリノは背景輻射に遮られることなく遠方宇宙から直接届く貴重なメッセンジャーなのです。 ところで、宇宙にある様々な天体は、宇宙の初めから現在まで、同じように存在しているわけではありません。例えば原始星や原始銀河は宇宙が若い時期に多く生成され、宇宙が年を取るにつれ少なくなっていくと考えるのが自然でしょう。これまで、ガンマ線といった高いエネルギーを持つ光を放つ天体の多く、例えば活動銀河中心核(AGN)やガンマ線バースト(GRB)などは、若い*1 LHC加速器=スイスとフランスの国境に建設された大型ハドロン衝突型加速器。*2 (宇宙)背景輻射=およそ137億年前に宇宙が大爆発(ビックバン)を起こしたときに出た光の名残。宇宙でより多く観測されてきました。 AGNは宇宙最大級のブラックホールを中心に持つ天体で、コンパクトな中心領域からの巨大なジェットや、広い波長にわたる強い光が、観測されています。GRBは宇宙最大の爆発現象で、太陽の質量エネルギーに相当するエネルギーをガンマ線としてわずか数秒から数十秒の間に放つ天体現象です。ニュートリノは遠方宇宙からも伝搬してくるので、過去により多く存在する天体の方が、より多くのニュートリノを作ることが出来ると考えられます。 観測される超高エネルギーニュートリノの流量は、遠方宇宙のUHECR起源天体の分布、つまり宇宙のどの時代に活動的な天体なのかを示唆します。ここから天体種類の同定が可能になるかもしれません。 今回、IceCube実験によって取得された7年分のデータを解析し、超高エネルギーニュートリノ探査を行いました。次ページの表に2つの異なる天体進化から期待される、主に100PeV-1EeVのエネルギー領域のニュートリノ事象数を示します。星形成率を意味するSFR (Star Formation Rate)は、宇宙の各時代における若い星の分布を表し、FRII(ファナロフ・ライリィII型)は比較的遠方に存在することが知られる明るい電波銀河の各時代における分布を表します。 本解析では、これらのモデルと観測されたデータとを比較し、データを最も良く描写する進化モデルを選別することでニュートリノ流量の観測からUHECR起源天体に迫りました。 今回解析を行った2008年4月から2015年5月までの、7年分のIceCubeデータから、図1、図2に示した2つのPeV領域のエネルギーを持つニュートリノ事象が観測されました。この2事象は約0.7PeVと2.6PeVのエネルギーを検出器内に放出していますが、UHECRの相互作用によって生み出される10PeVを超えるエネル最高エネルギー宇宙線源の宇宙論的進化とニュートリノ若い、遠方の天体と近傍宇宙の天体IceCube 7年間分のデータでの超高エネルギーニュートリノ探査ニュートリノと宇宙天体の宇宙論的分布 グローバルプロミネント研究基幹 准教授ニュートリノ天文学部門石原安野ニュートリノ観測からの最高エネルギー宇宙線源に対する示唆Report now 1

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る