ICEHAPNEWS vol.4
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時解析プログラムは世界中の望遠鏡や天文衛星が追尾観測を行うためのトリガーの役割を果たします。  アイスキューブ(IceCube)は南極点に5000個以上のセンサーを埋め込んだ検出器で、エネルギー、到来方向、フレーバー等、宇宙ニュートリノの特徴を捉えます。この実験において、千葉大グループは最高エネルギー領域にフォーカスしています。その主な探求対象はコスモジェニック("cosmogenic")ニュートリノと呼ばれる、極めて高いエネルギーの宇宙線が遠方宇宙を伝搬中に放射するニュートリノです。このプロジェクトを出発点にして、私の「リアルタイム(即時)」解析が始まりました。  即時解析の第一の目的は、宇宙ニュートリノを放射する天体の発見です。現在、IceCube実験による点源探索解析では、特定の方角からニュートリノが飛来している兆候はなく、放射天体候補は見つかっていません。このため、我々が探し求めるニュートリノ源は、普段は活発ではなく、短時間で散発的に宇宙線やニュートリノを放射する時間変動の大きい天体の可能性があります*1。このような放射源を、観測データを長時間蓄積して既知の天体との方向の相関を探す現在の点源探索のフレームワークでは見つけ出すことは困難です。 この問題を乗り越えるには、ニュートリノのほか、さまざまなチャンネルの観測データを組み合わせ、時刻と方角の相関を探し、一つのニュートリノ事象検出の統計的感度を上げることです。この手法はマルチメッセンジャーと呼ばれています。この枠組みで、IceCubeの即*1 別の可能性は、個々の輝度は暗いが、宇宙空間に非常に多数存在するような(ありふれた)種類の天体である場合である。しかし、宇宙線加速理論から考えるとこの可能性はやや考えにくい。*2 GCN=Gamma-ray Coordination Network.http://gcn.gsfc.nasa.gov/アイスキューブ実験によって捕らえられた最高エネルギーのミューオントラック事象。2.5 PeVのエネルギーを検出容積内で放出した。このような事象が超高エネルギー即時解析をオンラインで同定するターゲットである。氷河に埋設した86本の縦穴"strings"からなる、IceCube検出器のレイアウト。表面の色丸は、穴の位置を示す。間隔は約120メートル。氷河深部の濃い点々はセンサーが置かれた場所を表す。右のエッフェル塔と比べればスケールの大きさが分かる。 IceCubeの即時解析プロジェクトで私は、千葉大グループが取り組む超高エネルギーコスモジェニックニュートリノ探索のアルゴリズムをもとに、超高エネルギー宇宙ニュートリノ検出を南極点にてオンラインで実行できるプログラムを開発しました。信号同定基準を最適化し直し、やや低いエネルギー(500 TeV - 10 PeV)の宇宙ニュートリノの検出感度を向上させ、また衛星回線を介したアラート送信に必要なソフトウエアの開発と実装も行いました。開発した超高エネルギーオンライン即時探索から、年間4事象ほどが同定され、アラートが送られます。これまでの観測データの解析とシミュレーション研究から、うち2事象が宇宙ニュートリノ由来であることが期待されます。これはかなり「純度」の高い宇宙ニュートリノサンプルであるといえます。角度分解能は0.5度以下です。アラートはNASAが運営するGCN*2に送られ、また要請に応じて個々の観測施設にも送信されます。 IceCube実験は、いまや宇宙ニュートリノが多数を占めるサブセットデータを即時につくり、検出後3分以内に追尾観測のための情報を届けています。宇宙ニュートリノの放射源、つまりは宇宙線のソースを発見するために、マルチメッセンジャー手法が最も近道だと私は確信しています。IceCube 実験における即時解析特任研究員ニュートリノ天文学部門Matthew Relich高エネルギー宇宙ニュートリノ天体を捕獲する訳:吉田 滋(ICEHAPセンター長)Report now 2

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