ICEHAPNEWS vol.4
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 この大規模で秩序だった磁場を再現しようと、これまでに多くの取り組みがスーパーコンピュータを用いておこなわれてきました。そのような計算においては、高粘性・高磁気拡散のときは、ある程度秩序だった磁場構造が形成されていました。しかし、太陽に近づけようと低粘性・低磁気拡散を達成すると小スケールの磁場が支配的になってしまい、太陽のような大規模磁場が生成されなくなってしまいました。太陽のように極端に低粘性・低磁気拡散の状況下でどのように秩序ある大規模磁場が実現しているかは謎でした。 我々のグループでは新しく開発した手法で極端に解像度を上げることで、ある程度以上の高解像度では乱流による磁場生成が非常に効率的になり、逆に小スケールの乱流が磁場により抑制されて大規模磁場が生成されることを発見(図2)しました。 この成果は、Science, 2016, vol.351, p.1427*2で発表されました。 太陽表面には、しばしば黒点*1という低温で強磁場の領域が見られます。この黒点に関しては400年以上にわたる継続した記録があり、その記録から黒点の数には11年の周期があることがわかっています。黒点は強磁場であるので、黒点数の変動は、太陽の磁場の変動ともいえます。また、黒点の強磁場は太陽フレアやコロナ質量放出といった爆発現象を発生させ、地球環境にも影響を与えます。太陽の磁場はただ単に黒点数が変動するだけでなく、さまざまな秩序だったルールを持っていることが知られています。例えば、下図に示したように横軸に年、縦軸に緯度をとって磁場強度を示すと、黒点が出現している緯度が、11年周期の間で赤道に移動していることがわかります。 一つひとつの11年周期が蝶々のような形をしていることから、このような図は蝶形図(図1)と呼ばれています。また、極地方を見ると全球規模の磁場が11年で反転していることがわかります。さらに注意深く黒点の出現している低緯度の磁場を見ると11年ごとに極性ルールがあることもわかります。例えば、一番左端の蝶を見ると、北半球では、低緯度に黄色の磁極が、高緯度には青色の磁極が集中していることがわかり、南半球ではそのルールが反転しています。そして、11年ごとに全体の極性ルールが反転していることがわかります。太陽内部は非常に乱流的な熱対流で埋め尽くされており、そこで、磁場は生成されていると考えられていますが、そ図1:4つの蝶状の形がうかがえる「蝶形図」。横軸を年、縦軸を緯度にして動径方向磁場を表した。NASA ウェブサイトより引用http://solarscience.msfc.nasa.gov/images/magb y.jpg*2 スーパーコンピュータ「京」の世界最高解像度計算により太陽の磁場生成メカニズムを世界で初めて解明し、その論文が Science誌(2016年3月25日出版Vol.351)に掲載された。*1黒点=太陽黒点。黒く見えるのは磁場の発生によって、黒点の温度(4000℃)が通常の太陽表面の温度(6000℃)に比べ低くなるためである。図2:スーパーコンピュータ「京」で実現した世界最高解像度の太陽内部数値計算の結果のほとんど無秩序な乱流からこのような大規模で秩序だった構造が生成・維持されることが非常に興味深い謎でした。太陽黒点の不思議なルールスーパーコンピュータを用いた太陽内部計算理学研究科・特任助教 プラズマ宇宙研究部門堀田英之太陽の周期活動を作るような大規模磁場生成機構の発見Report now 1

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