ICEHAPNEWS vol.3
4/6

が起きることで、電子が効率的に加速されることを発見しました。スーパーコンピュータ「京」が有する高い計算能力を使って、これまでにない高解像度のシミュレーションを行ったところ、衝撃波面で一部のプラズマが上流に向かって反射されることで、長く伸びた磁場の反転構造が作られ、その構造の中で磁気リコネクションが発生して磁場の塊が噴出することが明らかになりました(図1上段)。 衝撃波に埋め込まれた小さなスケールで磁気リコネクション*1があちらこちらで起きることで、ランダムに運動する磁場の塊がたくさん現れます。この磁場 超新星爆発の名残である超新星残骸やブラックホールから飛び出すジェットなどの天体における爆発現象は、電波からX線・ガンマ線にわたる様々な波長の電磁波で明るく輝いています。これらの電磁波は、ほぼ光速で動きまわる電子によって放射されていると考えられていますが、この相対論的なエネルギーを持つ電子がどのようにして作られたかは、宇宙物理学の謎の一つとして残されています。超新星残骸の場合もジェットの場合も、中心天体から宇宙空間に超音速で放出されたガスが星間ガスと相互作用して衝撃波を作るため、相対論的電子は衝撃波において生成されていると考えられていますが、その具体的なメカニズムは解明されていません。 我々は、超新星残骸衝撃波を始めとする天体衝撃波の波面で磁気リコネクションと呼ばれるプラズマ過程*2フェルミ加速実験=宇宙線に含まれる高エネルギー粒子の加速機構としてエンリコ・フェルミが提案した機構。2種類あるがいずれも磁場を伴っている星間空間によって加速が行われる。*1磁気リコネクション=磁力線がつなぎ換わる現象。太陽のフレアや地球の磁気圏の尾部などで、この磁力線リコネクションが起こると、磁場エネルギーが解放され、プラズマの熱や運動エネルギーに変換されると考えられている。の塊と電子が繰り返し衝突することで、高エネルギーの電子が作られることが明らかになりました。 このような、粒子が散乱体と衝突を繰り返しながらエネルギーを獲得するメカニズムは、1949年にイタリアの物理学者エンリコ・フェルミによって提唱され、現在ではフェルミ加速*2として知られています。今回の研究ではこのフェルミ加速のメカニズムが、衝撃波では磁気リコネクションを介して極めて有効に働くことを、大規模シミュレーションによって初めて見出しました。 この新しい加速メカニズムを含め、高エネルギー電子がどのような状況で最も効率良く生成されるかを明らかにすることは、今後の課題です。スーパーコンピュータ「京」の計算資源をさらにフル活用して、現在その解明を目指した研究に取り組んでいます。宇宙線がどうやってできるのか?スーパーコンピュータで答えを探す図1:(上段左)衝撃波の構造。色は電子密度、線は磁力線を表す。(上段右)領域の拡大図。(下段)電子が磁場の塊(灰色線)に衝突しながらエネルギーを獲得する様子(赤線)。背景色は磁場の紙面に垂直な成分の大きさを表す(Matsumoto et al., Science, 2015の図より)。理学研究科・特任助教プラズマ宇宙研究部門松本洋介天体衝撃波における高エネルギー電子生成機構の新理論Report now 3

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る