ICEHAPNEWS vol.3
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放射される宇宙ニュートリノは存在するはずです(遠方のAGNであるクエーサー天体*2はその有力候補です)。このニュートリノは超高エネルギー帯でのこれからの探査で検出される可能性があります。この信号を検出し放射天体を他の望遠鏡との連動観測で同定しようと考えています。この話題は次号の ICEHAP ニュースに掲載します。 アイスキューブ(IceCube)実験は、2012年に最初の宇宙ニュートリノ信号を捉えて以来、着々と観測結果を積み重ねてきました。その発端となった最初の宇宙ニュートリノ信号同定は、PeV(=1015eV) 以上の超高エネルギー領域での宇宙ニュートリノ探査によるものでした。 100 EeV (可視光の20桁上のエネルギー) にも達する最高エネルギー宇宙線陽子は宇宙背景輻射*1と衝突しGZKニュートリノと呼ばれる2次ニュートリノを生成し、PeVからEeV(=1000 PeV)にかけてのエネルギー帯における宇宙ニュートリノの主要成分を構成します。超高エネルギー宇宙線の起源は、宇宙線の莫大なエネルギーを考慮すると、中心に巨大なブラックホールを持ち粒子をジェット上に吹き上げる巨大銀河(AGN)か、短時間に多数のγ線を吐き出すγ線バースト天体(GRB)の何れかと目されてきました。 遠方宇宙により多く存在するこの種の天体からも、貫通力に優れたニュートリノはエネルギー損失せずに地球まで飛来するため、GZKニュートリノの総量はIceCube実験の感度にかかる量に届くことが分かっています。この探査を主導する千葉大グループはこのほど2012年発表の解析をアップデートし2014年5月までの6年間のデータを用いた結果を発表しました。データ量は約2.5倍に増え、解析手法にも新たな工夫を施すことで、GZKニュートリノの検出が現実味を帯びていました。 今回の結果では新たに PeV程度のエネルギーを持つ事象が一つ見つかりました。しかしEeVのエネルギーを持つような 明白なGZKニュートリノの候補は無かったのです。AGNやGRBのような、遠方宇宙に多く見られるアクティブ天体は最高エネルギー宇宙線起源ではないという結論になります。 超高エネルギー宇宙線起源の定説に疑問符がつきました。一方で最高エネルギー宇宙線が陽子ではなく原子核ならば、GZKニュートリノの量は極めて少なくIceCube実験での観測にはかかりません。これがもう一つの有力な可能性です。この場合でも、宇宙線放射天体自身から*1宇宙背景輻射=別名をマイクロ波背景放射といい、ビッグバン(大爆誕)から出た光のなごりで、2.725Kの黒体放射の電磁波。*2クエーサー天体=非常に離れた距離に存在し極めて明るく輝いているために光学望遠鏡では内部構造が見えず、恒星のような点光源に見える天体のこと。図1:2014年5月までの6年間の観測データ解析により発見されたPeVイベント事象。氷河内に埋設された検出器の位置が白点で示されている。ニュートリノ衝突によって生じたチェレンコフ放射光が氷河内を走り各検出器によって捉えられる。色のついた丸の大きさが、該当検出器で測定された光子の数を表している。赤から青への色の違いは信号検出タイミングを示し、赤が時間的に早く検出された信号群である。約150メートル立方に渡って光が到達している巨大なイベントである。図1図2図2:もしGZKニュートリノのようなPeVをはるかに越えるエネルギーの事象であれば、この図のようにさらに多くの放射光がニュートリノ衝突により観測される。このイベントはコンピュータシミュレーションにより生成された。実際に発見された事象は、これほどまでの巨大発光を伴っていないため、GZKニュートリノ起源仮説は否定された。実際の判定確率計算は、もう少し複雑なステップを踏むが、こうしたチェレンコフ光量の違いが仮説検定において大きな役割を果たしている。超高エネルギー宇宙線起源の定説に見直しを迫るIceCube実験センター長 理学研究科・教授ニュートリノ天文学部門吉田 滋ニュートリノ観測が語る超高エネルギー宇宙線の起源Report now 1

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