ICEHAPnews_vol13-denshi
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*2 赤方偏移:物体が観測者から遠ざかる際に、その光の波長が伸びる現象のこと。その波長の変化をΔλ/λ=zで表す。  距離が遠くなると波長の伸びは大きくなるので、zは距離を示す指標でもある。図4 : この解析で発見されたマルチプレット信号の赤道座標系における位置。三つのニュートリノが検出され、マルチプレット信号となった。星のマーカーは, ニュートリノが観測された位置、鎖線はその方向不定性(1σ)、マゼンタの星は三つのニュートリノの方向をフィットして決めたマルチプレット信号の方向。図5 : マルチプレット信号として観測された天体の赤方偏移(距離)の分布。 青線(赤線)は2つ(3つ)のニュートリノが発見されたときを表す。鎖線はニュートリノとは関係ない超新星爆発の距離の分布を表す(30日の観測で、1deg2 の範囲に観測されたときの最小距離の分布)。される事象を指します。この解析では時間幅として30日を採用しました。効率的にマルチプレット信号を選別するために、従来IceCube実験で用いられていた手法を改良しました。詳細は今後出版する論文に譲りますが、ニュートリノのフラックスが小さいときは、従来の手法に比べて最大2桁ほど検出確率を改善することができます。12年間で得たデータを解析し、マルチプレット信号の探索を行いました。図4はこの解析で発見されたマルチプレット信号(の一つ)の位置を示しています。残念ながら、最も有意度が高かったものでも、背景事象の分布と無矛盾(p値は0.32)でした。しかし、背景事象と無矛盾な結果に意味が無いわけではありません。この事実を利用して、ニュートリノ放射源がどのくらい明るいのか、そして宇宙にどのくらい存在しているか、というパラメータを制限することができます。例えば、先に述べた星周物質をまとうような超新星爆発は、普通のものよりざっくり10倍くらい少ないとすると、ニュートリノ放出エネルギーにして1050 ergより小さいことが要求されることがわかりました。ノに、物理的な相関があると主張することは簡単なことではありません。ニュートリノが非常に遠方より到来すること、方向決定精度が1°程度とあまり良くないこと、この二つの要因により、対応天体の候補が多くなりすぎてしまうからです。例えば、すばるのような宇宙を深く観測できる「良い」望遠鏡で遠く(赤方偏移*2 z=1程度)までニュートリノ放射源を探索すると、1ヶ月では1deg2 に50以上の超新星爆発が見つかることになります。せっかくニュートリノを届けてくれた天体が観測できても、そのほとんどはニュートリノとは関係ない天体ですから、放射源の同定にはなりません。そこで満を持して登場するのが、この研究が注目したマルチプレットです。ニュートリノに関して明るい(=近い)天体のみがマルチプレットの信号を作ることができますから、真のニュートリノ天体を優先的に取り出すことができるのです。図5の色が付いたカーブは、マルチプレットとして観測される天体がどの赤方偏移にあるかの分布を示しています。現状のIceCubeのニュートリノに対する感度を考慮すると、赤方偏移として z<0.1の範囲にある天体がマルチプレット信号を届けることができます。この範囲は、すばるのような世界でも随一の口径をもつ望遠鏡でなくても観測が叶う距離です。一方で、無関係の超新星爆発の分布が黒の鎖線です。両者の分布には明らかな差がありますから、赤方偏移を測定することが出来れば、ニュートリノ放射天体なのか否か決着をつけることができます。マルチプレットにはもう一つ御利益があります。複数のニュートリノからなるマルチプレットは、方向決定精度が通常よりも向上します(およそ0.3°)。私は光学観測の感覚があまりわかりませんが、話を聞くところによると「1°の範囲の追観測は大変だよね、けど0.3°なら頑張ってみよう」というサムライスピリッツ(?!)が騒ぐ範疇であるようです。それくらい光学望遠鏡で眺める宇宙はいろいろな天体で満ちているのです。この文章を執筆している時点ではまだこの「マルチプレットアラート」は発信していませんが現在実現に向けて調整を行っています。関係各者の皆様、もう少々お待ちください(オマタセシテスミマセン)。新たなニュートリノアラートで放射源を探れ!IceCubeでは、有意なニュートリノ信号が観測されると、その到来方向などの情報を「アラート」として世界に発信しています。他の望遠鏡に追観測してもらうことで、ニュートリノの放射起源の同定をめざします。しかしながら、追観測によって見つかった天体とニュートリ信号を用いた射源の探索

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