図3 : チェレンコフ望遠鏡アレイ(CTA)の大口径望遠鏡(LST)1号基(©T. Inada)*1 SN1987A:大マゼラン雲内に発見された超新星。1987年にカミオカンデ実験によりニュートリノの放出が初めて確認された。この検出にによって、超新星爆発のメカニズムが実証されたことで、東京大学特別栄誉教授小柴昌俊先生がノーベル賞(2002年)を受賞した。たり蓄積されたデータを解析し、同期した信号の探索を行っています。また、IceCubeとMAXIのデータをリアルタイムで処理することにより、世界にその到来方向を発信するマルチメッセンジャーアラートの準備も進めています。先ほどの陽子と光の相互作用ではπ中間子という素粒子が生まれ、これが崩壊して高エネルギーのニュートリノを生み出すと知られています。電荷を持つπ中間子の崩壊ではニュートリノが生まれますが、電荷のないものが崩壊するとガンマ線が生まれます。すなわち、高エネルギーニュートリノを放出する天体現象からは、同時に高エネルギーガンマ線も出ていると考えるのがシンプルな描像です。しかし、発見された高エネルギーニュートリノ天体ではこの描像が必ずしも成り立っていない、とわかりつつあります。高エネルギーニュートリノを放出する天体を高エネルギーガンマ線でも追観測して両者の情報を組み合わせることで、まだわかっていないニュートリノ放射の仕組みに迫り、宇宙における粒子加速現象の理解を深めることができます。一口にガンマ線といっても何桁にもわたるエネルギーを意味しますが、PeVニュートリノに対応したガンマ線はTeV程度になり、これは地上大気チェレンコフ望遠鏡の守備範囲になります。チェレンコフ望遠鏡によるニュートリノイベントの追観測は10年以上の歴史を持ち、その成果の一つが先に述べた、MAGIC望遠鏡によるTXS0506+056観測です。しかし、その後同様の成果が出ないこと、NGC1068の想定外の結果などを受け、観測戦略の更新が強く求められます。特に、現在次世代計画のチェレンコフ望遠鏡アレイ(CTA)の建設が進んでいるため、今後10年以上にわたって、より高感度の追観測が安定して行われると期待されます。我々は、過去の経験を生かした観測戦略更新の策定をおこなっており、2024年からはその新しい戦略に従った追観測がCTAの大口径望遠鏡(LST)の1号基を用いて開始されます。また並行して残り3台のLST建設が佳境に入り、2026年には複数台望遠鏡による観測も始まります。高エネルギーニュートリノとガンマ線は一蓮托生、同じ天体から観測されるのは自然な予想と言えます。実際、大量のガンマ線を放出するガンマ線バースト(GRB)は、ニュートリノの放射起源の有力な候補の一つだと信じられてきました。しかしGRBとの相関を調べる解析が何度もなされるも、有意な兆候がみつかったことはありません。極めつけは、2022年の10月に見つかったGRBです。1000年に1度と言われるくらい近傍で明るいものだったのにも関わらず、IceCubeではニュートリノの信号を捉えることはできませんでした。ニュートリノの放射起源はどこにあるのでしょうか?GRBのようなレアな現象ではなく、意外と身近なところにあるかもしれません。例えば、超新星爆発(GRBよりも5桁ほど頻度が大きい)はその候補の一つです。実際、SN1987A*1から放出された10 MeV程度のニュートリノがカミオカンデで観測されています。このエネルギーは、星の中心から重力エネルギーが開放される際に、直接ニュートリノが持ち去る典型的なもので、その時間のスケールは数秒から数十秒です。一方でTeV以上ともなると、別のメカニズムを必要とします。その一つとして、超新星爆発によって広がった星周物質が宇宙線を加速し、高エネルギーニュートリノを生成するシナリオが考えられます。この加速器となる星周物質は星の核よりもずっと大きな拡がりを持ち、ニュートリノの放出の時間のスケールは1カ月といった長さになります。この「ふつう」とはちょっと違った超新星爆発が我々の宇宙をニュートリノで満たしているのかもしれません。長時間ニュートリノマルチプレットの探索 一か月スケールのニュートリノ放出を検証するために、ニュートリノの「マルチプレット」信号を探索することにしました。マルチプレットとはある時間幅、同じ方向に二つ以上のニュートリノが観測ニュートリノ天文学部門 高エネルギーニュートリノReport now 2マルチプレットニュートリノ放ハドロン宇宙国際研究センター清水 信宏
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