ICEHAPnews_vol13-denshi
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*1 ブレーザー銀河:活動銀河の一種で、その中心に潜むブラックホールからのジェットが地球の方向を向いていると考えられている。*2 セイファート銀河:活動銀河の一種で、非常に明るい中心核が存在するが強いジェットを伴わない。図1:ニュートリノと光のマルチメッセンジャー観測の概念図©higgstan.comて作られた荷電粒子が発するチェレンコフ光を検出器で観測することで、主にTeV以上のエネルギーのニュートリノを観測しています。2012年に最初の高エネルギー宇宙ニュートリノが発見されて以降、IceCubeのデータ収集⁄解析は進み、今ではその流量の精密測定がなされるほどになりました。しかし、どの天体がニュートリノを生成しているのかという知識に関しては、限定的と言わざるを得ません。このニュートリノの放射源を特定するうえで、光とのマルチメッセンジャー観測が重要になります。実際2017年、IceCubeのニュートリノ信号と、X線やガンマ線観測によるマルチメッセンジャー観測によって、TXS 0506+056というブレーザー銀河*1がニュートリノ放射源として特定されました(ICEHAPニュース No.8)。一方で、IceCubeで観測されるニュートリノが全てブレーザー銀河由来だと説明できないこともわかっており、2022年には多くの研究者が予想していなかったセイファート銀河*2のNGC1068からニュートリノが到来していることが判明しました(ICEHAPニュース No.12)。ニュートリノ放射に同期したX線信号の探査100 TeVを超える高エネルギーニュートリノを生成する有力な機構は、高エネルギーの陽子がkeV程度のX線と衝突する反応です。そのため、宇宙における天体現象に伴い、ニュートリノとX線の同時観測が期待されます。これを実験的に実現するには、ニュートリノとX線で、全天を常に見張っておく必要があります。実はこのような全天X線監視を2009年から行ってきたのが、国際宇宙ステーションに搭載されている日本のMAXIです。現在我々は、IceCubeとMAXIによる過去10年以上にわ図2 : 国際宇宙ステーションの日本の実験棟きぼうの曝露部に取り付けられた、全天X線監視装置MAXI(©JAXA/NASA)天文学は古くから可視光観測によって発展してきました。光は我々が直接赴くことができないような遠くの宇宙の情報を地球に伝えてくれる「メッセンジャー」であり、その情報を解読していくことで人類は宇宙への理解を深めてきたのです。現代では電波、X線、ガンマ線といった多波長の電磁波に感度を持つ実験装置が開発され、天文学はさらに厚みのある学問になっています。一方で、宇宙の天体からは電磁波以外の粒子や波が届けられていることも知られています。近年、IceCubeやLIGOの登場によって人類は高エネルギーニュートリノ、重力波という新たなメッセンジャーを観測する術を手に入れました。このような可視光だけでなく、複数の観測手法を用いて宇宙の謎を解明する学問を「マルチメッセンジャー天文学」といいます。ICEHAPでは、2023年度から新たにマルチメッセンジャー観測部門を立ち上げました。この部門は、飛翔体を用いたX線天文学を専門とする岩切助教と、地上の巨大な大気チェレンコフ望遠鏡によるガンマ線天文学を専門とする野田准教授を中心に構成されています。2010年代以降「マルチメッセンジャー」という言葉はずいぶんと浸透してきましたが、電磁波とニュートリノ観測の研究者が一つ屋根の下で密接に議論できる環境は、世界的にも珍しいものとなっています。IceCubeは南極大陸の氷河に設置された宇宙ニュートリノ望遠鏡です。ニュートリノが南極の氷河と反応しマルチメッセンジャー天文学部門マルチメッセンジャー天文学とは?宇宙ニュートリノはどのように作られどこからくるのかReport now 1マルチメッセンジャー天文学部門が発足しました国際研究基幹・ハドロン宇宙国際研究センター野田 浩司/岩切 渉

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