ICEHAPnews_vol12-denshi
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*1 光電子増倍管(PMT):浜松ホトニクス製。微弱なチェレンコフ光を検出し、増幅した電流に変換する。図1:D-Eggの内部(千葉市科学館の展示より)。*2 永遠の(旅路):D-Eggが南極点の氷河内に埋設されると、問題が発生しても2度と取り出すことができない。そのため、出荷前に入念な最終確認が行われる。*3 キャリブレーション:正しい値を計測できるように計測器が示す値を補正する作業のこと。較正ともいう。図2:-40℃の温度を保った冷凍庫。内部にはD-Eggを入れる箱が設置してある。IceCube実験の更なる可能性を拓く切り札の一つとして、千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター(ICEHAP)では、Dディー-Eエッグggという光検出器の開発を主導してきました。このD-Eggは光センサである光電子増倍管(PMT)*1を2台搭載しています。私がICEHAPに博士研究員として着任した2019年の時点では、数個のモックアップ(模型)が存在しただけで、作動するものはまだ作られていませんでした。それから4年後の今、300台以上のD-Eggが完成し、南極への出荷が認められようとしています。物の仕組みを理解するための最もよい方法の一つは、それを自分で創りあげることです。私の場合、それはD-Eggの動作試験のためのソフトウェアを書くこと、そして何より、実際に自分の手で検出器を組み立てることでした。例えば、D-Eggのガラス容器の洗浄や、シリコーンのゲルをガラスに注いだり、ケーブルを繋ぐなど地道な作業も含まれます。なかでも最も困難を極めたのは、PMTとガラス容器を「接着」するためのシリコーンゲルを、如何にコントロールするかという課題でした。硬化したシリコーンゲルが泡や空隙を含んでしまう問題が生じ、その解決に、膨大な議論や実験を必要としたのです。最終的には、安定した製造ができるようになっただけでなく、この過程で多くの教訓を得ることができました。南極へ送り出すまえに生産が軌道に乗り始めたころ、D-Eggの品質検査の計画が始動しました。D-Eggは、南極への長い(そして永遠の*2)旅路につく前に、別個に検査を行う必要があります。この検査を私たちは、Final Acceptance Test(FAT)と呼んでいます。そこでは、南極の環境を模した状況で試験することが求められます。-40℃の温度に保った冷凍庫の中で数週間もの間、キャリブレーション*3を行います。ハードウェアの健全性だけでなく、物理解析に求められる要求性能を満たしているかも同時に調べられ、南極に送ってよいかを判断するのです。研究においてはよくあることですが、特殊な課題には、それに特化した解決方法が要求されます。FATでは、D-Eggを超低温&暗室という特別な状況下で試験を行うことでした。ハードウェアとソフトウェアにまたがるこのシステム構築は、白紙からはじめ、結果的に3年の月日を要するものとなりました。その間私たちは、4万行にも及ぶソースコードを書き上げ、何百ものキャリブレーションを行いました。実効日数120日以上のデータ取得を行い、そのデータ量は数テラバイトを超えました。そして今もなお、増え続けています。D-Eggが南極の氷河に埋められた時、私の貢献が意義あるものとなり、エキサイティングな大発見(ニュートリノか、あるいは何か別のもの!?)につながることを願って止みません。このプロジェクトは常に挑戦の連続で、やりがいのあるものでしたが、D-Eggがニュートリノの持つ性質や宇宙線の加速機構への洞察を与え続けるものであってほしいと思っています。IceCubeのような実験は、多くの人に支えられています。「巨大な」科学には、「巨大」な協力体制で挑む必要があるからです。異なった個性が混ざり合い、多種多様な価値を与えあうことで新しい発見へとつながるのです。切磋琢磨しあえる仲間がいたからこそ、D-Eggは実現できたと思っています。ニュートリノ天文学部門自分たちの手で組み立てたD-EggReport now 2Story of Frozen Eggs ~ 凍った卵の物語 ~ハドロン宇宙国際研究センター 特任研究員Colton Hill コルトン・ヒル訳:清水 信宏(理学研究院・助教)

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