ICEHAPnews_vol12-denshi
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*1 光検出器モジュール(DOM):南極点氷河下で稼働しているIceCubeの初代光検出器。球状で、下向きにPMT1つが搭載されている。*2 江戸っ子1号:2013年に東京都・千葉県の中小企業6社と支援団体からなる「江戸っ子1号プロジェクト」により開発された日本の深海用小型フリーフォール型無人探査機。 提供:JAMSTEC*3 岡本硝子:千葉県柏市に所在するガラス製造会社。江戸っ子1号の開発から販売までを手掛けている。図1:(左)筒状ガラスの上下に上向きと下向きのPMTを容れこむことでより細くすることを可能にした初期のデザイン。結局このようなデザインでは製作が難しいことがわかる。(右)実際に製造されたD-Egg出会い図2:2013年に出会った、深海用カメラ『江戸っ子1号』IceCubeを超える次世代ニュートリノ望遠鏡を作ろう!という声が高まりだしたのは、2013年のことです。2004年12月から始まり約7年に渡り続いたIceCube検出器の建設も、2010年12月に最後の光検出器モジュール(DOM)*1の埋設が終了し、2011年5月から、稼働可能な全てのDOM5397個でのフル観測が始まりました。私は2006年から部分的に完成したIceCubeからのデータ解析をスタートさせ、2012年6月8日、京都で行われた国際会議Neutrino2012で世界初となる1PeVを超えるエネルギーを持つ宇宙ニュートリノの観測を報告しました。しかし、Physical Review Letters誌から論文が出版されたのは、その1年後の2013年7月。現在でも一筋縄ではいかない論文発表ですが(今回投稿したD-Eggの論文もレビューに1年以上かかっています…)、宇宙ニュートリノ初検出の論文には、言うまでもなく多くの意見や議論が巻き起こり、まとめるのに時間がかかりました。しかし、IceCube検出器で宇宙ニュートリノを見るという今となれば当たり前のことも、実際に観測してみるまでは本当にできるの? という懐疑的な空気が漂っていました。そんな中、出版に向けた議論を通じてその空気がポジティブなものに変わっていく様子は、まさに新しい分野が始まりつつあるときの熱波がIceCube実験メンバー内にじわじわと広がっていくようで、嬉しくもあったのです。論文出版後初めての共同研究者会議が2013年10月に、ミュンヘンであり、そこで「IceCubeで使われている光検出器DOMを次世代実験に向けて改造しよう」という内容の発表がありました。実はその発表に触発されたのです。10年以上かけて準備をしてきたIceCubeの建設が終わり、本格的な成果や解析手法の開発もまだまだこれからというこの時期、すでに『新しい望遠鏡のデザインを考えている!』 というのは驚きでもあり、これでひと仕事終わったと思ったら大間違いだぞといわれているようで、大いに刺激を受けました。そこから、自分ならどういうデザインにしたいかという半分妄想に取りつかれ、共同研究者会議の間中、そして、帰りの飛行機の中でと考え続け、筒の両端に半球を2つ取り付けた細長いガラス球の中に、上向きと下向きのPMTを2つ入れることで、全方向からの光に対し同等の感度を持つ検出器デザインにたどり着き、帰りの飛行機の中で、「まずはプロトタイプを作ってみようと」心は固まっていました。IceCube実験に参加をした2005年から毎日のようにデータを眺めては、IceCubeのDOMについて考えていたので、「こういう検出器があるといいな」というアイデアはすぐに湧いてきました。しかし、南極の氷河に埋設するという特殊性から、それが実現可能なのかどうかがはっきりしません。そのような思いでいた帰国後の2013年11月、どうしたら現実的に検出器開発を進められるだろうかと考えていた丁度その頃、中小企業が力を合わせて作った深海用カメラ「江戸っ子1号」*2が深海8000mでの動画撮影に成功という記事を見かけたのです。そのカメラはIceCube実験が南極点氷河中で使っているものとよく似たガラス球の中に入っていました。半信半疑ながらIceCube向け耐圧ガラス製造の可能性について問い合わせたところ、可能性はあるという回答を得ました。その岡本硝子*3とはその後、ニュートリノ天文学部門次はどんな研究をしようかReport now 1新型光検出器開発 ことはじめ国際研究基幹・ハドロン宇宙国際研究センター石原安野

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