私たちは、高精度の磁気流体コードCANS+[2]を、輻射輸送、及び輻射と物質の相互作用を近似的に解くように拡張し、この輻射磁気流体コードを適用することによって、状態遷移中の時間発展計算に成功しました。 図1(a)に温度の3次元分布、(b)に時間発展を示します。赤が高温、青が低温領域です。ブラックホールの質量は107太陽質量としました。ブラックホール近傍の高温領域の外に106-107Kの軟X線放射領域が形成され、この領域が数日程度の周期で振動することがわかりました。放射エネルギーは軟X線が卓越します。これを示したのが図2(a)です。カラーは輻射エネルギー密度、実線が輻射の流線です。軟X線放射領域の輻射エネルギー密度が最大になっています。遠方から観測したときの光度変化を図2(b)に黒い実線で示します。縦軸の単位は球対称降着の場合の上限光度であるエディントン光度です。上限光度の0.5%程度の光度で、準周期的な光度変化が生じることがわかりました。この光度と周期は、Changing Look AGNの光度、短時間変動の時間スケールとよく一致しています。 活動銀河中心核エンジンの研究は長く停滞していましたが、Changing Look AGNの多波長同時観測とシミュレーション結果の比較を突破口として、統一的な理解が急速に進展しつつあります。 活動銀河中心核(Active Galactic Nuclei: AGN)には、ブラックホールシャドーが初めて撮像されたM87のように中心核が可視光では暗い電波銀河と可視光・紫外線で明るいセイファート銀河やクエーサーがあります。最近、この2種類の活動銀河間を遷移するChanging Look AGNが注目されています。ひとつの銀河が、あるときは暗い電波銀河、あるときはセイファート銀河になるわけです。これらのAGNの増光時には激しく時間変動する強い軟X線放射が観測されています。この軟X線がどこから放射されているか、これまで謎でした。なぜなら、活動銀河中心核の巨大ブラックホールの周りに形成される高光度の回転円盤(降着円盤)の温度は105K程度しかなく、軟X線を放射するには低すぎるからです。 千葉大学大学院生の五十嵐太一君を中心とする私たちのグループは、国立天文台のスーパーコンピュータXC50等を用いて、巨大ブラックホール降着流の3次元シミュレーションを実施し、状態遷移中の時間発展を明らかにしました[1]。従来、ブラックホール降着流の大局的3次元計算は高温低密度で輻射が無視できる場合と輻射エネルギーが熱エネルギーを凌駕する場合しか行われていませんでした。これは、その中間状態では円盤の厚みが薄くなり、解像できなくなってしまうためです。図1:3次元輻射磁気流体シミュレーションから得られた(a)温度分布。青色が軟X線放射領域。(b)温度分布の時間発展。横軸はシュバルツシルト半径を単位とした動径座標、縦軸はt0=100sを単位とした時間(Igarashi et al. 2020[1]より抜粋)。図2:(a)のカラーは輻射エネルギー密度の分布。実線は輻射の流線。(b)の黒線は鉛直方向遠方から観測した光度変化。単位はエディントン光度。赤線は動径速度(Igarashi et al. 2020[1]より抜粋)。理学研究院・教授松元亮治活動銀河中心核における短時間変動する軟X線放射領域の形成[1]“Radiation Magnetohydrodynamic Simulations of Sub-Eddington Accretion Flows in AGNs: Origin of Soft X-Ray Excess and Rapid Time Variabilities”, Igarashi et al. Astrophysical Journal 902, 103, DOI:10.3847/1538-4357/abb592 (2020)[2] “Magnetohydrodynamic simulation code CANS+: Assessments and applications”, Matsumoto, Y. et al. Publ. Astron. Soc. Japan 71, DOI: 10.1093/pasj/psz064 (2019)明滅する活動銀河中心核活動銀河核のふたつの顔プラズマ宇宙研究部門Report now 2
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