千葉大学へと送られてきたD-Eggたちには、南極へ送るに相応しいかを判別するためにFinal Acceptance Test(FAT)が課されます。室温とマイナス40度の間を行ったり来たりして温度ストレスをかける約20日間の長期的な試験を経ることで, 南極深氷河中という過酷な環境下においても安定した稼働が保証できるのです。我々が所有する大型フリーザー内には1度に16台の各D-Eggが遮光用の暗箱へ収納されます(図5)。この暗箱にはフリーザー外から32本の光ファイバーが伸びており、レーザーからの光を伝搬。検出器の上下に搭載されたPMTへと照射します。南極における実際の実験環境ではニュートリノ反応由来の荷電粒子により生じるチェレンコフ光を検出しますが、試験用のセットアップではこのレーザー光を用いて模擬的に光検出器の性能を評価します。FATの肝とも言える暗箱の完成は、本学工学部デザイン学科の意匠形態学研究室の方々からの多大なるご協力あってのもの。例えば、低温時に降りた霜が温度低下に従って溶けて板が吸水し反ってしまうという問題に対しては、ウレタンで塗装されたパネコートを用いるという解決策をいただきました。 またFAT用のソフトウェア開発は基本的に自前で行っていますが、IceCubeグループ所属のソフトウェアエンジニアの方々からも、時には海外からテレビ会議を繋いでのリアルタイムデバッグなど、数え切れないほどのご助言をいただいたことは忘れてはなりません。この場を借りて御礼申し上げます。 現在はNMEでのD-Egg製造と千葉大学でのFATを並行して進め、南極へ検出器を送り出す準備を着々と進めています。学会や研究会において、それぞれの最新状況について報告をしていますので、興味のある方はそれらにぜひ足を運んでみてください。稼働でも内部部品が酸化しないように工夫しています。耐圧ガラス球の封止作業では、過去のDOM製造時に開発された技術の他に、NMEにとって本来の業務の1つである海底地震計OBSの整備で培われた技術も応用されています。NMEの方々と二人三脚をしつつ1日2台ペースで製造し、2021年度中に約300台のD-Egg製造完了を目指しています。 2019年度中に開始できると思われた検出器製造も、令和元年房総半島台風による製造現場の浸水被害やコロナ禍による自宅待機要請といった外的要因が重なり、長期的な延期を余儀なくされました。それでも基板の試験など、できることを粛々と進め、製造再開に備えること約1年。そして2020年10月5日、ついに本格的な製造が開始され、待望のD-Egg第1号が完成しました(図4)。この第1号の完成で勢いに乗っていた我々は当初の予定に比べて倍となる、1日あたり4台ペースでの製造を敢行。その結果、1週間で製造した計16台のD-Eggを第1便として千葉大学へと送り出すことができました。 余談ですが、慣習として各検出器には愛称を付けることになっており、D-Eggの場合は南極大陸もしくはその周辺に棲息する鳥類や魚類などの名称から引用しています。例えばD-Egg第1号には「Adelie Penguin」、 第2号には「Emperor Penguin」といった形です。これらは南極大陸に主な繁殖地を持つ2種のペンギンにちなんでいます。図3:(左)部品実装後のD-Egg下半球。(右)封止前に下半球から伸びるケーブルを上半球のデバイダ回路基板へ接続する。D-Egg第1号の完成Final Acceptance Test図5:(左)本研究室所有の大型フリーザー及びD-Egg収納用の暗箱。 (右)暗箱内へ収納された状態のD-Egg。図4:D-Egg第1号 (写真下段中央)と当日製造に参加していたNME及び千葉大学のメンバー。マスク越しに安堵の表情が見て取れます。写真右端が筆者。
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