ICEHAP NEWS vol.10
5/8

天体現象を数値的に解くにはCANS+を使った研究と今後の発展誰もが使えるシミュレーターの開発と公開Reportnow2ドは多数のCPUを使って高速に計算できるように設計されており、すぐにスーパーコンピューターを使った研究を始めることができるようになっています。シミュレーション研究の初心者に対してはあらかじめ設定された基本問題が多数用意されており、それらを元にした利用方法などの日本語ドキュメントがソースコードとともにWeb上 (http://www.astro.phys.s.chiba-u.ac.jp/cans/doc/) で公開されています。またCANS+のアルゴリズムや性能評価の詳細はMatsumoto et al. [2019][1]の論文で公開されています(オープンアクセス)。 CANS+はこれまでブラックホール周りの降着円盤の進化や宇宙ジェット伝搬などの研究に利用されています。例えば最近、天の川銀河中心にある巨大ブラックホールが急に明るく輝いた観測報告がありました(Do et al., 2019[2])が、CANS+を用いた降着円盤シミュレーションによって示した磁場増幅機構がその説明となりうるとして、注目されています(図1 Kawashima et al., 2017[3])。さらに最近ではCANS+に様々な効果を追加することで、宇宙ジェット伝搬の研究(Ohmura et al., 2019[4])や輻射輸送方程式とカップルした降着流・噴出流のダイナミクスの研究へと発展しています(Kobayashi et al., 2018[5])。[1] “Magnetohydrodynamic simulation code CANS+: Assessments and applications”, Matsumoto et al., Publ. Astron. Soc. Japan, 71, DOI: 10.1093/pasj/psz064 (2019)[2] “Unprecedented Near-infrared Brightness and Variability of Sgr A*”, Do et al., ApJL, 882, 2; DOI: 10.3847/2041-8213/ab38c3 (2019)[3] “A possible time-delayed brightening of the Sgr A* accretion ow after the pericenter passage of the G2 cloud”, Kawashima, Matsumoto, Matsumoto, Publ. Astron. Soc. Japan, 69, DOI: 10.1093/pasj/psx015 (2017) 天体現象を理解するための研究手法として、理論・観測に加えて、計算機シミュレーションが大きな役割を果たしています。とりわけ、磁気流体(MHD)方程式に基づくMHDシミュレーションが計算宇宙物理分野で広く使われています。MHD方程式は複雑なため、計算機で正確に解くことは容易ではありません。特に天体現象に付随する爆発現象を数値的に正しく記述するには、高度な計算アルゴリズムの導入が必要とされています。これは、若手研究者や大学院生がシミュレーション研究を始めるにあたってひとつの障壁となっていました。 我々のグループを中心としてこれまでCANS+というMHDシミュレーションコードを開発してきました。CANS+の特徴として、1.最先端の計算アルゴリズムが導入されている、2.スーパーコンピューター上での大規模計算が実施可能、3.日本語ドキュメントとともにコードが公開されている、などが挙げられます。 CANS+に最先端のアルゴリズムを導入することで天体の爆発現象など、極限的な状況でも数値的に安定かつ精度よく解くことが可能になりました。加えて、数値コー理学研究院・特任准教授プラズマ宇宙研究部門松本洋介みんなが使える宇宙シミュレーターCANS+図1:天の川銀河中心にあるブラックホール周りの降着円盤の進化シミュレーション(Kawashima et al., 2017[3]より抜粋)。色はプラズマ密度を表す。観測によって発見されたガス雲(プラズマの塊)が降着円盤と相互作用することで磁場が増幅される。この機構により2020年頃に銀河中心が明るく輝くことを予言した。[4] “Two-Temperature Magnetohydrodynamics Simulations of Propagation of Semi-Relativistic Jets”, Ohmura et al., Galaxies, 7, 14, DOI: 10.3390/galaxies7010014 (2019)[5] “Three-dimensional structure of clumpy outflow from supercritical accretion ow onto black holes”, Kobayashi et al., Publ. Astron. Soc. Japan, 70, DOI: 10.1093/pasj/psx157 (2018)

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る